夕日を背に受けて、二人は並んで歩いていた。
長く伸びた二つの影が、先を行く。
影と影の間は、少し。
影の主たちが手を伸ばせば、その影は容易に一つになる。
そんな距離。
不意に、背後から笑い声が聞こえた。
そして、いくつかの足音が段々と近付いてきた。
徐々に賑やかになっていく二人の背後。
振り返ると、逆光が眩しい。
けれど、子供達が数人、駆け足でこちらに向かって来ているのが分かる。
小さな影と、高い声。
じゃれあうように影の形が変わって、地面に様々な模様を作る。
そうやって段々と近付いて、やがて二人を追い越していった。
「あの子達、楽しそうですね」
「ええ」
「お家へ帰るんですね」
は、何処か楽しそうな声で言う。
「これだけ日が、傾いていますから、ね」
ゆっくりと、薬売りが答える。
遠ざかっていく子供達を眺めていると、そのうちの一人が振り返った。
「お〜い、そんなやつにかまってると日がくれちまうぜ〜」
その声は、二人を追い越してその後ろを行った。
「うるせぇ。さきに行ってろよ」
二人がまた振り返ると、影があった。
高さの違う二つの影。
否。
元は、二つの影。
けれど、一つになっている。
二人は立ち止まって、その影を待った。
その影が近付いてくる間に、先を行っていた子どもたちの声も足音も遠ざかって聞こえなくなっていた。
やがて傍に来た影が、男の子と女の子だと分かる。
女の子よりも少しだけ背の高い男の子は、剥れた顔をしている。
女の子は顔を真っ赤にして、ボロボロと涙を流していた。
子供達に何があったのかは分からない。
けれど、大粒の涙を流す女の子の手と、少し拗ねたような男の子の手は、しっかりと繋がれていた。
ゆっくり歩きながら、ぶらぶらと繋いだ手を揺らす。
「なくなよ」
「…っ」
「なくなって」
「…っく」
「いっただろ」
「…う」
「おれがまもるって」
「…ん」
涙を空いている方の袖で拭いながら、女の子は大きく頷いた。
そして男の子と女の子は、しっかりと手を繋いだまま、ゆっくりと薬売りとを追い抜いて行った。
暫く、その後姿を見送った。
「さん」
「…はい?」
は薬売りを見上げる。
それと同時に、左手が引かれる。
視線を落とすと、薬売りの右手がの左手を捕らえていた。
「薬売りさん」
仕方ないなぁ、と笑みを漏らす。
「守ると、言いましたから」
口角を上げて、その笑みに応える。
「…はい。お願いします」
長く伸びた影が一つ、ゆっくりと歩き始めた。
-END-
1000打キリリク。
漸くです。
この話を書いたとき
薬売りさんがヒロインに“守る”と約束してくれた『女郎蜘蛛』序の幕も
実際に守ってくれた五の幕もupしてなかったので
『女郎蜘蛛』の完結を待ってからの更新にしました。
リクエストは“ほのぼの”だったんですが
こんな感じでいかがでしょうか?
2009/12/5