短編
〜秋の旅路〜







「うわぁ、空がこんなに高い!」

 町を離れ開けた場所へ来ると、は明るい声を上げた。

「すっかり気持ちのいい季節になりましたね」

 満面の笑みで薬売りを振り返る。

「今年の夏は、酷い暑さ、でしたからね」

 の笑顔に、薬売りの口角も上がる。



 高く澄んだ青い空が、夏の終わり、秋の訪れを知らせる。
 あれほど眩しかった日差しも、今は心地いい。

「何処かへ行きたくなりますね」

「いつも行っているじゃあないですか」

「そうなんですけど…」

 モノノ怪退治の旅とは、また違うもののことだ。

「その…」

 急にしゅんとしたに、薬売りは内心分かりやすい、と思う。

「モノノ怪とは、また別の、てぇことですか」

 薬売りの問いに、は口を噤んだまま。
 頷いていいものかどうか、伺っている。

「美味いものを食べたり、紅葉を眺めたり」

「…でも、モノノ怪を…」

「たまには、いいんじゃあないですか」

「え?」

「いつもモノノ怪を求めて、旅をしていますから。たまには…」

 薬売りは悪戯っぽい視線を向ける。

「薬売りさん…」

「旅には、最良の季節、ですよ」

 その言葉に、は笑顔を取り戻す。

「さて、それじゃあ何処へ行きましょうね」

 いつも宛てのない旅している。
 モノノ怪の気配は探るものの、結構な行き当たりばったり。
 目的があるのなら、今回は行き先を決められる。

「紅葉なら、京がいいです。きっと今から向かえば、いい時期に入れるんじゃないですか?」

「それは、名案ですね」

 二人は決まったとばかりに歩き出す。

「何だか、ちょっと不思議な感じです」

 の呟きに、薬売りは首を傾げた。

「モノノ怪が二の次になるなんて、いいんですか?」

「これまでずっと、モノノ怪第一でやってきたんですから、たまには息抜きをしても、罰は当たりませんよ」

「そうですよね」

 は何処かホッとした顔をする。

「まぁ…でも、俺たちのことだから、きっと行った先には、いるんでしょうよ、モノノ怪が」

「それもそうですね」

 冗談交じりの薬売りの声に、も頷いた。
 そうして、柔らかく微笑みあう。

 爽やかな追い風が、そんな二人の背中を押した。



















END










たまには息抜きをさせてあげたい…!



九月の半ばに書いたものを今更ですが上げてみました。

2013/11/24