「さん…」
呼ばれて目を開けると、視界は青一色。
「押し倒されるのは、嫌いじゃないんですが、ね」
すぐ上から、薬売りの声が聞こえた。
は慌てて顔を上げる。
「雪の上じゃあ、冷たくて敵いませんよ」
は状況を把握しようと、辺りを見回す。
薬売りの言うとおり、が薬売りを、雪の上に押し倒している状態だった。
「え!?? あのっ、すいませ…」
謝りかけて、ははたと気付いた。
雪に埋もれた薬売りは、雪に引けを取らないほど白い肌をしている。
思わず、息を呑んでしまうほどに。
「転ぶから走るなと、言ったはずなんですがね…」
溜め息混じりの薬売りの言葉も、聞こえてはいない。
それくらい見入ってしまっている。
「さん、聞いているんで?」
「えっ!?」
頬に触れた冷たい手で、我に返る。
「ご、ごめんなさい! すぐに退きます」
は慌てて起き上がると、薬売りから離れた。
が立ち上がると、薬売りは上体だけを起こした。
そうしてを見上げる。
差し出される、の小さな手、細い腕。
もちろんの力で薬売りを立ち上がらせることは出来ないから、形だけのもの。
雪の中でも一際白い。
薬売りはその少し頼りない、けれど優しい手を取る。
自分だけに差し出される、の手を。
互いに冷たい。
「大分、冷えてしまいましたね」
「誰のせいだと、思っているんで」
つい出来心に、繋いだ手を引っ張ってみる。
「え、ちょっ…!!」
思いがけず引っ張られて、は体勢を崩す。
そうしてもう一度倒れこむ。
薬売りの腕の中。
「薬売りさん!? 冷えてしまいますよ?」
「いいじゃあ、ないですか」
「風邪でも引いたらどうするんですか?」
「そうしたら、看病してください」
「そうじゃなくて…」
は薬売りの上でじたばたともがく。
薬売りは気にも留めず、満足そうに瞳を閉じた。
-END-
あんまり欺いてない…
でも、とりあえず超短編雪三部作でした。
サラッと何も考えずに作ってしまったので纏まりがないですが…
短編は季節ネタが多いので
多分次は春の話ですかねぇ?
2010/3/13