ふと気が付くと、一人だった。
日が落ちると同時に、通りには人の姿は一つもなくなっていて。
一人だった。
急に、物悲しくなる。
道端に、一人取り残されて。
家々から漏れる、柔らかな蝋燭の灯。
その灯りの下で、家族や仲間や恋人たちが温かな時を過ごしてるんだろう。
前にも、この物悲しさは感じたことがある。
しかも、しょっちゅう。
母が亡くなって、一人になったとき。
もうその頃には自分も奉公に出ていた。
晴れやかな顔で帰路につく周りの人達と歩くのが嫌で、わざと少し遅く店を出ていた。
もうすっかり暗くなった頃、長屋に帰ってくる。
長屋の一番奥が、私の家だった。
明かりの点いた家を、何軒も通り過ぎて。
帰り着いた自分の部屋は、真っ暗だった。
小さな部屋だったけれど、一人になるととても広かった。
毎日、朝と夜には仏壇に手を合わせて、静かなときを過ごした。
周りの部屋は皆、大家族で、笑い声や怒鳴り声が良く聞こえてた。
それが救いでもあり、そして虚しさの元凶でもあった。
周りの皆は、とても良くしてくれた。
母が女手一つで私を育てていたときも。
私が母を亡くして一人になったときも。
気に掛けてくれて、支えてくれていた。
それでもやっぱり、物悲しさや虚しさがなくなることはなかった。
この力も、それを一層強くするものだった。
「!?」
急に目の前が明るくなって、現実に引き戻された。
柔らかく、けれど強い光を放つ提灯。
ゆらゆらと、私を照らしている。
私だけじゃなく、その提灯を持っている人も。
「何をぼんやり、突っ立っているんで」
それじゃあ、襲ってくれと言っているようなもんだ、と呆れている。
その顔は誰が見ても無表情だと、絶対に言うだろう。
けれど、少しだけ困っている。
私には分かる。
「…」
答えるよりも早く、身体が勝手に動いていた。
「おっと」
私は薬売りさんの胸にしがみついた。
抱きついたんじゃない。
確実にしがみついた。縋りついたというのかもしれない。
とにかく、温もりが欲しかった。
他の誰でもない、薬売りさんの。
「さん?」
ここに居たい。
「仕方、ありませんね」
こんな往来で、とぼやく声が聞こえたけれど。
薬売りさんは空いているほうの手で、抱きしめてくれた。
私はあのとき、温かくて柔らかな明りを失くしてしまったけれど。
でも今は、永遠に消えない明りを手に入れました。
それは、貴方のお陰です。
一粒の涙が、頬を伝い落ちた。
-END-
2011/12/4