「薬売りさん、聞いてください!」

 満面の笑みで、が部屋に駆け込んできた。

「一体、どうしたんで」

 随分と急いできたらしいに、薬売りは僅かに首を傾ぐ。
 奉公に出ていたのではないのだろうか。

 は薬売りの傍まで来ると、呼吸を整える。
 それから、やはり嬉々とした顔で薬売りを見上げた。


「薬売りさんのフィギュアが発売されるそうです!」


 突き抜けるほどの明るい声で、はそう言った。


「…は…?」


 何の事かと、薬売りは思う。


「…聞こえませんでした? 薬売りさんの」
「聞こえていますよ」


 の声を遮るように、薬売りは呆れた声を出す。


「俺のフィギュアが出ることが、それほど嬉しいこと、なんで」
「嬉しいに決まってます」


 真面目に答える


「いつでも薬売りさんが居てくれるんですもん」


 妙なことを言い出すものだと思いながら、薬売りはの話を大人しく聞いてやった。

「床の間、神棚でもいいです! …に置いておけば、見守っていてくれるし、枕元に置いておけば、一緒に居るみたい。それに、いつでも薬売りさんを眺めていられます」


 嬉しそうに力説するものだから、薬売りはどうにも溜息を止められなかった。


「あ、…呆れましたよね…?」


 溜息を吐く薬売りを見て、は肩を落とした。


「いえ、ね」


 薬売りはの手を引くと、傍に座らせる。


「いつも傍に居るのに、必要なものかと、思ったもんで」

「…そう、なんですけど」

 俯くの顔を覗き込んで、薬売りは先を促す。

「出来れば、本当に、いつも…」

 口籠るに、薬売りはクツクツと笑った。

「わ、笑いごとじゃないんですよ!? 本当に…っ」

 覗き込んだ姿勢から、薬売りはに口付けた。







「本物にしか、こういうことは、出来ませんぜ」

「…あの…、でも…その」


 悪戯っぽく笑う薬売りに、は反応が出来ない。
 少し悪ふざけが過ぎたかと、薬売りはの頭を撫でてやった。
 恨めしそうに薬売りを見上げるは、居心地が悪そうだ。

「でも、買います。薬売りさんの、分身みたいだから…」

 薬売りは、負けた、とばかりに肩の力を抜いた。

「…なら、俺も、出来る限り、貴女の傍に、いますよ」

 もう一度、優しく口付けた。




















END







2015/10/12
薬売りさんフィギュア発売決定を祝して!