〜花火・四〜





 これまでよりも、一際大きな花火が咲いた。
 夜空に開いたその花は、きらきらと燃え尽きて、やがて消えてしまった。
 それが、最後の花火だった。
 すぐ後に打留が鳴って、それが正式に花火の終わりを告げた。



 花火は、大好き。


 始まるまでの期待で胸がいっぱいになる感じとか。
 子供みたいにはしゃぐ自分が恥ずかしいけど、それでも楽しくなる。

 空に浮かんだ花火は、うっとりするほど綺麗。
 自分でも知らないうちに頬が緩んでしまう。


 でも、終わったときの何とも言えない寂しい気持ちが少しだけ苦手。


 終わったと分かっているのに、それでも暫く真っ暗な空を見上げたままになってしまう。


「終わって、しまいましたね」


 聞こえてきた貴方の声は、囁くように静かだった。
 貴方の方を向いた私の顔を見て、貴方は少しだけ驚いた顔をした。
 私、どんな顔をしているんだろう。

 不意に、手が引かれた。

「そんなに、寂しい、ですか」

 あぁ、気持ちがそのまま顔に出ていたんだ。
 私は、そんなことないって笑いかける。

 貴方も、笑いかけてくれて、そうして―。


 もう一度、私を抱きしめてくれた。



 暑いはずなのに、その温もりは心地いい。



 温もりが寂しさを包んで、寂しさが消えてしまった。



 何度も花火を見てきたけれど、こんな感覚は初めてだった。
 ずっと一人で花火を見てきて、花火が終わった後のこの寂しさは、一晩中纏わり付いて来るものだった。

 それが、こんなにも簡単に、消えてしまうなんて―。

 これは、貴方がくれたものなんですか。


 見上げた先の貴方は、優しい瞳で私を見ている。



「帰ると、しましょうか」



 そう言って貴方は、腕を解いた。
 身体が離れて涼しくなったはずなのに、少しだけ残念な気分になる。
 でも、そんな気分も貴方のお陰でなくなってしまう。
 貴方の手は、そのまま私の手を攫った。

「墓地を、一人で歩くつもり、ですか」

 “早く来ないと置いていく”って言いたいんですね。
 そんな事、しないくせに。
 そう思いながら、貴方の手を握り返した。




 下駄が石畳を打って、その小気味いい音が境内に響く。
 あれだけ居た見物人は、すっかり居なくなっていた。
 ゆっくり、ゆっくりと歩く私達。

「足元に、気をつけて、くださいね」

 灯りの少なくなった境内。
 貴方が手を引いていてくれれば、私には何も恐いものはありません。
 冗談交じりにそう言うと、貴方はクツクツと笑った。


 だから、絶対に離さないで―。




「離しませんよ」




 不意打ちをくらって驚いた顔で見上げると、貴方はやっぱり穏やかに笑っていて…。




「俺が、触れていたいんですから、ね」




 そう言ってまた、貴方は私の手を引いた―。





















-END-













これで漸く「花火」完結です。




2012/12/30