これまでよりも、一際大きな花火が咲いた。
夜空に開いたその花は、きらきらと燃え尽きて、やがて消えてしまった。
それが、最後の花火だった。
すぐ後に打留が鳴って、それが正式に花火の終わりを告げた。
花火は、大好き。
始まるまでの期待で胸がいっぱいになる感じとか。
子供みたいにはしゃぐ自分が恥ずかしいけど、それでも楽しくなる。
空に浮かんだ花火は、うっとりするほど綺麗。
自分でも知らないうちに頬が緩んでしまう。
でも、終わったときの何とも言えない寂しい気持ちが少しだけ苦手。
終わったと分かっているのに、それでも暫く真っ暗な空を見上げたままになってしまう。
「終わって、しまいましたね」
聞こえてきた貴方の声は、囁くように静かだった。
貴方の方を向いた私の顔を見て、貴方は少しだけ驚いた顔をした。
私、どんな顔をしているんだろう。
不意に、手が引かれた。
「そんなに、寂しい、ですか」
あぁ、気持ちがそのまま顔に出ていたんだ。
私は、そんなことないって笑いかける。
貴方も、笑いかけてくれて、そうして―。
もう一度、私を抱きしめてくれた。
暑いはずなのに、その温もりは心地いい。
温もりが寂しさを包んで、寂しさが消えてしまった。
何度も花火を見てきたけれど、こんな感覚は初めてだった。
ずっと一人で花火を見てきて、花火が終わった後のこの寂しさは、一晩中纏わり付いて来るものだった。
それが、こんなにも簡単に、消えてしまうなんて―。
これは、貴方がくれたものなんですか。
見上げた先の貴方は、優しい瞳で私を見ている。
「帰ると、しましょうか」
そう言って貴方は、腕を解いた。
身体が離れて涼しくなったはずなのに、少しだけ残念な気分になる。
でも、そんな気分も貴方のお陰でなくなってしまう。
貴方の手は、そのまま私の手を攫った。
「墓地を、一人で歩くつもり、ですか」
“早く来ないと置いていく”って言いたいんですね。
そんな事、しないくせに。
そう思いながら、貴方の手を握り返した。
下駄が石畳を打って、その小気味いい音が境内に響く。
あれだけ居た見物人は、すっかり居なくなっていた。
ゆっくり、ゆっくりと歩く私達。
「足元に、気をつけて、くださいね」
灯りの少なくなった境内。
貴方が手を引いていてくれれば、私には何も恐いものはありません。
冗談交じりにそう言うと、貴方はクツクツと笑った。
だから、絶対に離さないで―。
「離しませんよ」
不意打ちをくらって驚いた顔で見上げると、貴方はやっぱり穏やかに笑っていて…。
「俺が、触れていたいんですから、ね」
そう言ってまた、貴方は私の手を引いた―。
-END-
これで漸く「花火」完結です。
2012/12/30