空に雲は無く。
海は凪いで。
冷たい風と静けさだけが二人を包んでいた。
辺りはまだ暗く。
待ち望むものは未だ来ず。
「大丈夫、ですか」
「…はい」
穏やかな海を前に。
砂浜に佇む。
「鼻の頭が真っ赤、ですよ」
「仕方ないです、寒いんですから」
寄り添う二人はただじっとその時を待つ。
「海の先が明るくなってきました!」
「もうじき、ですね」
はそっと、薬売りの手に触れる。
互いに冷たいけれど、薬売りはの手をしっかりと握ってくれた。
くすりと、笑む。
年を越して初めての日の出を、二人で見に行こうと約束したのは、ちょうど一年前だった。
あの日から一年経って、こうしてその約束を果たそうとしている。
あの日から一年、離れることなく、道が別れることなく、変わらずこうして二人で旅をしている。
何て幸せな事だろう。
薬売りの肩に軽く凭れて、煌きだした海の先を眺める。
次第に辺りが明るくなって。
夕日のような赤に染められていく。
二人は、その瞬間に見入った。
思わず、息を止めた。
遠くを飛ぶ鳥は黒い影になり。
海は真っ白に輝き。
二人は照らされた。
背後には、長い影が伸びた。
眩しさに、目を細める。
くい、と手を引かれた。
薬売りを見れば、を見下ろしている。
「薬売りさん、光ってます」
「貴女も、ですよ」
「今年も、宜しくお願いしますね」
「俺の科白、ですよ」
「じゃあ…」
「来年もまた二人で見に来ましょう、初日の出」
「それも俺の科白、だったんですがね。先を、越されましたか」
うっかり、うっかりとぼやく薬売りを見て、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
その髪を、薬売りはさらりと撫でた。
赤く丸い顔を覗かせた太陽は、何かに追い立てられるかのようにどんどんと上昇していった。
それに合わせて、次第に影は短く縮んでいく。
その影が、初めの半分ほどになった頃、二人はその場を後にした。
-END-
明けましておめでとうございます。
早いもので、2011年らしいです。
今年もどうぞ、宜しくお願いいたします。
2011/1/1