彼女と同じ年頃の娘の念が生んだモノノ怪を斬った。
信じていた者に裏切られた娘は、自分を愛してくれた男を信じられず、その男に殺された。
その男も、自害した。
彼女は、何も言わずにその場から背を向けた。
自分と同じ年頃の娘がモノノ怪を生んでしまうことを、殊更に哀しむのだ。
その娘達の気持ちを思って、苦しむのだ。
モノノ怪は斬らねばならない。
けれど俺は、貴女をそんな顔にする為に、モノノ怪を斬っているんじゃあない。
貴女に、娘達の気持ちを引き受けさせてしまっている事は、酷な事だと思っている。
貴女と旅を始めて、貴女の力を知って…
貴女がモノノ怪の思いを受け止めてくれなければ、俺はモノノ怪を斬る事が出来ない。
そう思うようになった。
けれど、俺がモノノ怪を斬る度に、貴女に辛い思いをさせている。
そうして、暗い顔をさせてしまっている。
俯いたまま歩き出した彼女の先には、目の覚めるような太陽の花が咲いていた。
幾輪も、背伸びするように。
元気に笑っているかのように。
まるで、彼女のようだ。
いつも背伸びするように直向きで。
いつも俺に笑顔をくれて。
明るく、それでいて気負いすぎの笑顔。
その花の群れの中で、彼女は足を止めた。
俯いていた頭が上げられ、じっとその花たちを見ているようだ。
そうして、彼女の肩の力が抜けていくのが分かった。
後姿でも、よく分かる。
大きく息を吸って、その花を見渡す。
身体の両側に力なく下がっていた両腕は胸に当てられ、静かな呼吸を繰り返している。
そうして、もう一度俯く。
気持ちを整理している。
俺は、彼女の背に向かって歩き出した。
そうして、後ろから彼女を包み込んだ。
彼女の呼吸に合わせて、俺も呼吸した。
「…さん…」
俺の呼びかけに、彼女はゆっくりと向き直って俺を見た。
とても、綺麗な笑顔で。
向日葵のように、輝いた笑顔で。
涙の跡はあったけれど、それでもその笑顔は眩しいほどだった。
「薬売りさんがこうしてくれると、気持ちが和らぎます」
「いや…」
「え…?」
「今回は、向日葵のお陰でしょう」
俺がそう言うと、彼女は首を横に振った。
そうしてまた、優しく笑う。
「どちらもです」
「いつも、辛い思いをさせて、すみませんね」
モノノ怪を斬ることしか出来ない自分を、自分で許せずに憎む事もある。
彼女を苦しめる事しか出来ない自分を…
「辛くなんてないです」
彼女は、咲き誇る…いや、咲き狂う向日葵のように、力強い笑みを見せた。
「薬売りさんがいるから」
そうして彼女の手が、俺の頬に触れた。
「だから、薬売りさんも笑ってください」
-END-
随分前に書いたもの。
向日葵が似合う季節になりました。
2014/8/3