短編



〜風鈴〜








 ちりん、ちりん。



 屋台に吊るされた沢山の風鈴が軽やかな音を奏でる。



 ちりん、ちりん。



 沢山の風鈴から下がる短冊がひらひらと風に舞う。







 銅、鉄…様々なもので作られた様々な形の風鈴。
 神社の参道の両側に連なる屋台に、それぞれ自慢の品が並べてある。
 参道は音で溢れ、涼やかであり、騒々しくもあった。


「凄いですね、薬売りさん!」


 風鈴の音にも負けないくらいの軽い足取りで、が参道を歩く。
 嬉しそうにあちこち見て回り、時には足を止めて風鈴の音を確かめる。
 はしゃぐを見て、薬売りは小さく微笑んだ。

「あ、あれ、ビードロっていうんですよね?」

 はとある屋台に吊るされた透明の風鈴を指した。

「おや、珍しい」

 ビーロド―硝子製の風鈴はまだまだ珍しい。
 より涼しく見えるよう、波や金魚の絵付けがされている。


「わぁ、さすがにお値段は張りますね」

 は、はは、と気のない笑みを浮かべた。

「あっちの銅のものなら、小さくて手頃そうですね」

 向かいの屋台へと向かうを、薬売りは追っていく。

「こんな高い音もするんですね」

 短冊を揺らして風鈴を鳴らす。

「小さくて可愛いですね」

 にこにこと同意を求めてくるに、薬売りは少々戸惑った。

「買ったとしても、何処に吊るすんで」

 薬売りが問う。

「えっ…と」

 は困ったとばかりに考え込む。
 旅を続ける二人に、風鈴を吊るしておくような家はない。
 割れ物を持ち歩くわけにはいかないし、何より、真冬にはただのお荷物だ。


「薬売りさんの行李に」

「そりゃあ、止めていただきたく…」

「小さいものだったら、邪魔にならないかも」

「俺は、ちんどん屋じゃあありませんよ」

 の冗談に、薬売りは辟易する。

「…角に当たって割れてしまうかもしれませんね…」

 薬売りを見つめながらじっと考え込む

「あ、その帯の端なんてどうですか?」

 何処か楽しそうな顔では尋ねる。

さん」

 薬売りは小さく嘆息する。

「う〜ん…」

 構わず思案を続ける。


「そんなに付けたいのなら、貴女の被っている笠にでも付けたら、いいんじゃあないですか」


 薬売りが呆れ気味にそうに言った。
 その言葉には明らかに難色を示した。

「私じゃ意味がないんです」

「それはどういう」

「付けるなら薬売りさんじゃないと」


 それまでの笑みとは違う、優しい笑みを浮かべる


「風鈴は、邪気除けになるので」


 そう言ってから、は悪戯っぽく笑った。
 それから身を翻して、風鈴の響く参道を先へ歩いて行ってしまった。


 あぁ。


 薬売りは納得して、肩の力を抜いた。
 そうして、弾むように歩くの後ろ姿を見つめた。


 その後ろ姿が、愛おしくてたまらない。
 こんなにも自分を案じてくれる存在。


 心地良い風鈴の音に包まれて、薬売りはしばし瞳を閉じた。




 風鈴の音に混じって、自分を呼ぶ声が聞こえる。



 それもまた、心地良く――。


















END










テレビで風鈴市みたいなのを見て、風鈴ネタいいなぁって思ってまして。
今日書いて今日upなので、あまり深い意味もないし、書き込んでもいません…

薬売りさんとヒロインが仲が良ければいいです。
そしてちょっとでも涼を感じていただければ…

2013/8/18