「しんせ…、えぇ!?」
目を丸くするに、沖田も神谷も苦笑する。
「そんなに驚かなくても…」
「す、すみませんっ」
苦笑する神谷に対し、は驚くばかり。
噂では、新選組は強面で腕に覚えのある男達の集まりなのだと聞いた。
眼光鋭く市中を見回り、その姿を見れば泣く子も黙る。
この二人は、その新選組の隊士だという。
しかも、片方は一番隊隊長、もう一人も一番隊に籍を置いている。
「偽者じゃないですよ。今、新選組を騙っても得はしませんから」
ははは、と屈託なく笑う沖田は、新選組の隊長には到底見えない。
「新選組を貶めようとする奴が、人助けなんてしませんよ」
神谷が冗談交じりに沖田をねめつける。
「それにしても」
沖田が薬売りを見る。
「何か」
「どうみても絡んでくれと言っているような格好ですね」
「商売柄、目立って何ぼ、ですからね」
「それはそうですが」
「俺は昔から変わらず、この姿で旅をしていますから」
「…世の中が変わったと言いたいんですね」
薬売りは答えなかった。
「さっきのような事は慣れているようですし、貴方は随分勘の良い方のようなので私は何も言いませんけど」
「勘、ですか」
「一目見て、私を新選組の人間だと見抜いたでしょう」
沖田は頭を掻きながら、“いやだなぁ”とぼやいてみせる。
「そりゃあ、あんた方が、只ならない雰囲気だったから、ですよ」
「貴方も充分只ならないと思いますけど」
「そりゃあ、どうも」
口角を上げる薬売りに、沖田は苦笑した。
「沖田先生、早くしないと葛餅、売り切れちゃいますよ」
「そうでしたね、行きましょうか。では私達はこれで」
二人は薬売りとに軽く会釈をして去って行った。
その後姿を見送ってから、薬売りとは顔を見合わせた。
「薬売りさん、今の聞きました?」
「えぇ」
「葛餅って言ってましたね」
「えぇ、言ってました」
「…っ、何か意外です」
は堪えきれずに笑い出した。
「笑っては、いけませんよ」
「そうなんですけど…ふふっ。可愛らしい人たちだと思って」
「武士だろうが新選組だろうが、男だろうが、甘いものが好きな人くらい、いくらでもいるじゃあないですか」
「そうですけど、だって、さっきの“凄み”が…」
浪人を撃退した時の鋭い表情とは、似ても似つかないくらい楽しそうな顔をしていた。
「きっと非番の日に、葛餅を食べにいくことを、楽しみにしていたんですよ」
「じゃあ私達はお邪魔をしてしまったわけですね」
「彼らにとっては、些細な事、ですよ。…それに」
「? それに、何ですか?」
薬売りが何かを言いかけたので、はその顔を覗きこんで続きを促した。
「きっと、“二人で”行くことが、とても重要なこと、なんでしょう」
「あの二人で、ですか?」
薬売りは首肯する。
には何のことだか分からない。
「気付きませんでしたか」
「何をですか?」
「さん、最初に神谷さんという方を見て、どう、思いましたか」
「どうって、吃驚するくらい綺麗な男の人だなぁって」
一瞬呆けてしまうほどに美形だった。
もうすこし幼い時分だったなら、“美童”と言われていたに違いない。
「女の人って言われても疑わないかもしれません」
「…そういうこと、ですよ」
「え?」
は薬売りの顔を仰ぎ見る。
薬売りは、面白そうに笑んでいる。
「分かりましたか」
「え、でもっ」
言いかけたの唇を、薬売りの人差し指が制する。
「きっと、誰も気付きません」
だからそっとしておきましょう、と薬売りは言った。
はその指先に戸惑いながらも、口に出してはいけないという薬売りの忠告に従う。
「じゃあ、どうして薬売りさんは気付いたんですか?」
指が唇から離れて、はそう薬売りに問う。
の問いに、薬売りはしばし思案した。
「…俺が…」
「俺が?」
「只ならない者、だからですよ」
薬売りは目を細めてそう答えた。
「…それって、突っ込む所ですか…?」
END
沖田先生の行く末を思うと、おセイちゃんと少しでも長く一緒に居てほしいと願うのは、いけないことでしょうかね…?
2014/5/4