ぼんやりとした視界に映る世界は、やっぱり薄暗かった。
けれど、すぐ傍に誰かがいるのは分かった。
ゆらゆらとその影が揺れているのは、きっと蝋燭の灯のせいだ。
「さん」
その低い声は、優しい響き。
「…ん」
瞼が重くて、思うように目が開かない。
「さん」
もう一度呼ばれて、どうにか目を開けなきゃと思う。
腕を上げようとすると、酷く怠くて思うようにならない。
それでも目元に手を宛がって、何とか視界を取り戻そうとした。
「大丈夫、ですか」
「…薬売りさん…?」
どうにか目を開けると、薬売りさんが覗き込んでいた。
「薬売りさん!」
「おっ、と」
重い体を引き上げるようにして、薬売りさんに抱き着いた。
薬売りさんは私を受け止めて、抱きしめてくれた。
「…会いたかった…」
噛み締めるように言うと、薬売りさんは頭を撫でてくれた。
「会いたかったってぇ、今日一日、一緒だったじゃあないですか」
少し呆れ気味の声だった。
それに私は首を振った。
「夢の中で、ずっと一人だったんです」
薬売りさんも、繻雫もいない。
何もない世界で、ただ一人歩いていた。
「薬売りさんに会いたいって…ずっと、歩いて」
薬売りさんにしがみつく様にして、まるで子供みたいだ。
それでも、薬売りさんが居ることが嬉しくて仕方ない。
「薬売りさんを呼んだら風が吹いて。そこに向かって歩いたんです」
頬に優しく触れて、髪を柔らかく揺らす。
今、薬売りさんがしてくれているみたいに。
「あ…っ」
顔を上げると、薬売りさんと目が合った。
薬売りさんは目を細めると、静かに言った。
「俺はいつも、貴女の傍にいます」
あぁ、本当にこの人は、いつも…
END
2016/9/4