「…うっ…」
月が中天を過ぎた頃、薬売りは目を覚ました。
なにやら、呻き声がする。
辺りは薄い闇。
月が蒼く輝いて、部屋を照らしている。
薬売りは、起き上がると衝立の横から隣を覗き込んだ。
肩から落ちる髪を、鬱陶しげに手で押さえる。
「…っ」
眠っているはずの娘の呼吸は荒い。
苦悶の表情。
何か、悪い夢でも見ているのだろうか。
夢魔にでも取り付かれているのだろうか。
「さん…?」
薬売りはそっと衝立を超える。
の布団の横に座り込むと、静かにの頭に手を触れた。
優しく撫でてやる。
そうしているうちに少し表情が和らいだように見えた。
薬売りは微かに満足げな顔をする。
自分がそんな顔をしている事には気付くこともない。
思い立って、の額に掛かる髪をさらりと除けてみる。
そうして、露わになった額に優しく唇を寄せた。
「…ん…」
微かにが身じろいで、薬売りは様子を覗う。
薄っすらと目を明けた。
目を開けて最初に瞳に映ったのは薬売り。
それに密かに安堵する。
けれど闇の中では僅かな月の光でも逆光になって、薬売りの表情は分からない。
「どう、しました」
静かに問いかけてくる声は穏やか。
その声にもう一度安堵する。
ぼんやりとしたまま、けれど哀しそうに眉根を寄せる。
「…悪い夢を…」
「そう、ですか」
お互いに短い答え。
けれど、それで充分にお互いが分かる。
薬売りは、の前髪を指先で弄って額を隠す。
「…くす」
「俺が、居ます」
「…!」
少しだけ驚いた顔をするの頬に指を滑らせる。
「心配は、いりませんよ」
何か感じ入るように、は深く瞬きをして、もう一度目を明けたときには微笑みを浮かべていた。
そうしてコクリと頷くと同時に、一筋の涙を流した。
「まだ、夜明けまで、随分あります。お休み、なさい」
「…はい」
目を閉じたの穏やかな息遣い。
その息遣いに薬売りのそれが重なる。
それが、眠りを誘った。
再び眠りに落ちようとしたを、不思議な感覚が襲った。
唇に触れたもの。
優しく、温かく、愛おしく。
-END-
と、言う訳で
宛てもなく始まってしまった曲名お題…
何処まで行くのか全く予定は立てていません。
個人的な趣味嗜好の押し売りです。
付き合うも付き合わないも自由。
本編よりはちょっと甘めが目標です。
「blue memories」
「悪い夢」
「光」
「何もない空間」
「変わらない微笑を」
「そっと口付け」
「涙の笑顔」
「終らない約束を」
2010/8/20
THE FIRST ANNIVERSARY!