last song







 窓の桟を背もたれ代わりに凭れて、一息ついた。
 今日は何だか身体がだるい。

「お疲れですか?」

 ぼんやりとした視界に、遠慮がちに入り込んできたのは、さんだった。

「そう、なのかもしれませんね」

 珍しく素直に言ってみると、さんは少しだけ驚いた顔をした。


「やっぱり」


 けれど、すぐにふわりと微笑んだ。


「やっぱり、てぇのは…」
「だって薬売りさん、そういうこと言ってくれないから」

 言わないというよりは、疲れたと感じないから言いようがないのだが…。

「立て続けにモノノ怪を斬ったんだから、当然です」


 そう言われればそうだ。
 この二十日余りで、五体のモノノ怪を斬った。


 モノノ怪退治を生業としていても、こうも立て続けにモノノ怪に遭うことは稀だ。
 モノノ怪と退治し、退魔の剣を解放するには、気力も体力も要る。
 自分でも気付かぬうちに、相当消耗していたという事だろう。


「少しゆっくりしていてください。何か身体に優しいものを頂いてきますね」

 そう言って、俺の視界からさんが消えようとする。
 それを、引き止めた。
 気遣いはありがたいけれど、一番の薬が何かは自分でも分かっている。

「…あの…」

 戸惑いの色を見せるさん。
 俺に手を取られて、恥ずかしがっているのか、瞳が揺れる。…目が泳いでいると言うべきか。

「ここに」

 短く、その手を掴んだ意図を伝える。

「でもっ、何か…食べた方が…」

 俺の言葉に動揺しているのが、よく分かる。

「ここに、居てください」

 貴女が傍に居れば、俺は満たされる。
 俺を癒す事が出来るのは、貴女だけだ。

 そんな事を口に出せば、きっとさんは顔を真っ赤にするだろう。

 さんは、観念して俺の隣に腰を下ろした。
 淡く漏れる月の光が、薄く二人の影を作る。

「傍に居るだけで、いいんですか?」
「いいんですよ」

 囁くような問いに、囁くように答えた。













「〜っ、あぁ、もう…」


 いくらかの沈黙の後、突然さんが声を上げた。
 心なしか…


「薬売りさんが珍しくそんなこと言うから…っ」


 鼻声。


「頼ってくれるから…っ」
「涙が、出るんで?」
「だって、初めてじゃないですか」
「そうかも、しれませんね」


 甘えさせるのは俺の役目で、俺が甘える事などないと、自分でも思っていた。
 けれど、こうして凭れてみるのも、悪くはないのかもしれない。


 さんの嬉しそうで、それでいて恥ずかしそうな笑みと、月の光を受けた涙は、こんなにも心を満たすのだから。














-END-




連続更新第二弾です。
纏ってませんが…

2011/2/27






-抜粋-


疲れきった身体沈んでいく 月明かり窓から漏れて


ああ 確かに 確かにあの日君は綺麗な涙
ああ 浮かべて僕に誓ってくれた 二人に嘘はないと