※never say good-byeと繋がりがあります。
※薬売りのオリジナル設定も。
「俺の故郷(さと)は、雪が多くてね」
この位の雪は、大したことはないと、その男は言った。
とはいっても、吹雪いている。
「しかし、雪国とここじゃあ、家の造りが違うから、大分冷えるな」
囲炉裏の火に手を近づけて、男は苦笑した。
山越えを試みたが、突然の雪に見舞われ、麓の村で足止めされた。
行き合わせた旅の男と俺を気前よく受け入れてくれたのは、老夫婦だった。
囲炉裏を囲んで、暖をとる。
「そうかい、雪国の家は暖かいのかい」
「あぁ、戸を二重にしたりな」
その男はよく喋って、老夫婦を楽しませていた。
「あんたの故郷は?」
男は俺に向かってそう言った。
何と言うことは無いその問いに、言葉が詰まった。
俺に、故郷と呼べるものはない。
もうずっと、気の遠くなるような時を、旅をして過ごしてきた。
何処かで誰かが、自分を待っているなんて経験は、したことがない。
いや…
それも昔の話か。
今は、帰るべき場所がある。
だからそこを、の待っている町を、故郷と呼んでしまおう。
「…どちらかといえば、温かい所、ですかね」
「それじゃあこの寒さは堪えるだろう?」
「いえ、ずっと、あちこち旅をしているもんで」
暑い所にも寒い所にも、いくらでも行ったことがある。
あまり、気にはしていなかったけれど。
でも、と旅を始めてからは、季節というものを感じるようになった。
一人では感じなかったことを、教えてくれたのだ。
それまではずっと、この世の中で一人だと感じていた。
立ち寄る町も、関わる人も、全ては通り過ぎるだけのものだった。
それが当たり前だと思っていた。
故郷もなければ、居場所もなかった。
けれど―
と旅をすることで、俺には居場所が出来た。
が待っている場所が、家になった。
それがこんなに心地いいものだとは知らなかった。
「郷には、誰か待っているのかい?」
老夫婦が、穏やかな笑顔を見せた。
「えぇ」
「それは、幸せなことだねぇ」
思わず、口角が上がったのが分かった。
「えぇ、本当に」
いつか、また二人で旅をしたいと思っているけれど…
その反面、ずっとこの心地よさが続いてもいいと思っている自分に気付く。
あぁ何て、幸せな悩みでしょうね。
-END-
連続更新第三弾。
これでとりあえず最後です。
また溜まったら更新しますね。
2011/3/6
-抜粋-
都会の雑踏 背に向けて歩いた
舞い上がる風にはいくつもの壊れた約束
ちっぽけな言い訳だけが勇気だった
不安な思いばかり溜め息の夜に
無邪気な笑顔の子供たちの瞳は
素直な瞬き 街を見つめ生きていくのか
はるか遠く消えそうな故郷の空には
今にも翼広げ羽ばたく虹超えて
涙が溢れてた I wanna moment like forever
世界中で一人のような気がして
誰のせいでもなく君のせいでもなく
過ぎるときに答えかき消されても忘れない