まず初めに。

東日本大震災によって亡くなられた方々のご冥福をお祈りすると共に
今も不自由な生活を送っている方々が一刻も早く元の生活に戻れることを
切に願っております。























前へ























 ねぇ、母さん。

 私を一人残して逝ったこと、あまり気に病まないでね。







 母さんを看取った後、私は確かに一人になった。
 悲しくて、寂しくて、辛くて、不安で不安で仕方なかった。

 この先どうしたらいいのか、全然分からなくて。


 でも、沢山の人が、私を助けてくれたよ。
 長屋の皆や、母さんの奉公先の旦那様や奥様、よくお使いで行ってたお店の人も、皆私を心配してくれた。
 これからどうすればいいのか、どう生きていったらいいのか。
 色んなことを教えてくれたよ。

 それでも、旅に出ようと思ったのは、それが少し、辛かったの。
 皆の優しさが辛かった。
 助けられてばかりで、甘えてばかりだった。
 それでいいって、誰かが言ってくれたけど、納得できなかった。

 力の事も、あったから。

 静かな夜はよく聞こえたし、どうにかしてあげたいって思うようになった。
 私は沢山の人達に支えられて来たけど、この声の主を助けてあげられるのは、私しかいないんじゃないかって。

 それが、旅に出た理由。


 私も、誰かの役に立ちたい―。






 旅に出て、沢山の人と出会った。
 沢山のモノノ怪や、この世ならざるものにも。

 皆、大切なものを抱えて生きていた。
 壊さないように、失くさないように、大事に、大事に。


 その思いの強さが、私には痛いほどに理解ったの。
 父さんが、その命と引き換えにくれた音の世界は、私に沢山の思いを教えてくれた。
 今の私には、すべてかけがえのないものだよ。








 それからね…



 一人で歩いていくんだって思ってた旅路が、二人になったの。



 その人には、また別な、大切な事を教えてもらった…かな。








 ねぇ、母さん。


 人を好きになるって、本当に素敵なことだね。


 最初はね、そうじゃないって思いたかった。
 でも、ダメだった。
 一緒にいたいって、思った。
 私を見て欲しいって、思った。

 繻雫から聞いた父さんと母さんの馴れ初めも素敵だったけど、私のも、結構奇跡的だったんだよ。



 そうして、その人と、今、旅をしてるの。



 毎日が凄く楽しい。
 キラキラしてる。



 もっとこの人と歩いて、沢山の思いを受け止めたいと思う。
 こんな、哀しい人の世だから、心に傷を負った人は沢山居る。
 たった二人の力でどれだけの声を聞いて、どれだけのモノノ怪を退治出来て、どれだけの心を救えるかは分からないけど。
 でも、この人と歩けるなら、私は前を向いていられるよ。









 ねぇ、母さん。




 私は、一人じゃないよ。




 だから、安心して?











 ううん。



 きっと、分かってたんだね。



 分かってたから、母さんは声をあげなかった。








 うん。





 大丈夫だよ。



















さん」




 静かにかけられた声で、は合わせていた手を解いた。

 ゆっくりと目を開け、声のした方を見ると、その場に相応しいとは言えない出で立ちの男が立っていた。


「薬売りさん」
「ここで一体、何をしているんで」


 長いこと、を探したのか、少々不満そうな顔をしている。



「母の、お墓なんです」



 戻した視線の先には、簡素な石の置いてあるだけの墓。
 そこには、小さな花が供えられていた。



「お母上の…」



 不満そうな顔から、僅かに驚いた顔になる。
 問いに、頷くだけで答えたの顔は、穏やかそうに見える。



「旅に出て以来だったので。色んな話をしてたら、すっかり長くなってしまいました」



 ね、と墓石に向かって同意を求めるようにする。



「今さっき、薬売りさんの事も話したところです」
「ほぅ。それじゃあ俺も、挨拶を、しなければ」
「え…」


 薬売りの言葉に、は俄かに頬を染める。
 薬売りは、の隣にしゃがみ込むと、同じように墓石を見つめた。



「お初に、お目にかかります。薬売りを生業とし、各地を巡っております。その先で、さんと出会いました」

 薬売りの自己紹介を、は困ったように聞いている。

「貴女や、お父上がいたお陰で、今のさんが居て、俺達は出会うことが出来た。そう、思っています」

 薬売りは、の肩をそっと抱く。

「貴女方に、感謝、致します」

 は、不意に目頭の熱さを感じる。




「これからは、俺が、守ります。俺が、大切にします。貴女方の分も―」




 薬売りの静かな誓いに、の目からホロホロと涙が落ちた。

 その涙を拭う手は、何処までも優しくて、何処までも温かかった。







 ねぇ、母さん。




 私は、ちゃんと歩いて行けるよ。




 この人と。







 だから、遠くからでもいい。
 見守っていてね。




























-END-


















本当に、本当に、upしようかどうか迷いました。


一年前の今日、あの大災害。
管理人自信も、あまり思い出したくありません。


今も大変な生活をしている人達がいると思うと、
こうしてupすることは不謹慎じゃないかと思いました。


それでもupしたのは
「沢山の人が被災地を支えているよ」
「忘れてないよ」
「一緒に歩いていこう」
という事を伝えたかったからです。



分かり辛いかもしれませんが
そういう気持ちを込めて書きました。



2012/3/11