幕間第十三巻
〜紅・弐〜











“本人に聞くのが一番よ”





 と言われたものの、宿に帰っても聞ける気はしなかった。













 薬売りさんは今、お風呂に行っている。
 私はいつもその間に二人分の床を延べて、その間に衝立を立てておく。
 薬売りさんが出していった天秤さんたちが、くるくると遊ぶように部屋の中を行ったり来たりしている。


 私は、自分の分の布団の上に座り込んで、薬売りさんがくれた紅を見つめていた。
 掌に収まる小さな器。
 普通、紅はお猪口の中に塗られているけれど、これは貝のように小さい器の中に塗られている。


「魔除け…だよね」


 使った跡が、一箇所だけある。
 魔除けだといって、薬売りさんが塗ってくれたときのもの。


「魔除け…」


「うん、魔除け…」






「魔除けが、どうかしたんで?」





「―っ!!!??」


 突然の薬売りさんの声に、持っていた紅を取り落としそうになる。
 慌ててしっかりと掴んで、薬売りさんからは見えないようにする。
「は、早かったですね…」
 苦し紛れ。
「そう、ですか」
 ていうか、いつの間に部屋に入ったんですか。
「その紅が、どうかしたんで?」
 見えていましたか、紅だと。
「いえ」
「挿しては、くれないんですか」
「勿体無くて、使えません」
 こんな高価なもの、私じゃ一生かかっても買えるかどうか。
 だから使えるわけがないじゃない。
「俺が挿してくれと言っても、ですか」
「だ、だって、今はモノノ怪なんて…」
「居ても居なくても、挿してもらいたいんですがね」
 少し怒った風に言って、薬売りさんは衝立の向こうにしゃがみ込んだ。


 何だか、緊張する。
 呼吸するのに、胸が震える。


「どうして、ですか」


 無意識に、口が開いていた。


「何が、ですか」


 衝立の向こうから声が返ってくる。


「どうして私に、紅をくれたんですか」




 沈黙が続く。




 何を考えているんだろう。
 私は。
 薬売りさんは。
 こんなことを聞いて、何になるの。


「貴女のことを…」


 薬売りさんは、静かに言った。




「守りたいんですよ」




 それは、モノノ怪から、ですよね。
 そういうことですよね。
 深い意味なんて、ないってことですよね。
 それで、いいんですよね。




 私は深く息を吐いた。




「薬売りさんって心配性なんですね。紅がなくても、いつも薬売りさんは守ってくれるじゃないですか」
 本当に優しい人だから。
「何も、モノノ怪に限ったことでは、ないんですがね」
「…え…?」
 薬売りさんはクツリと笑って、それから黙ってしまった。
 どういう意図でくれたのか、結局分からずじまい。




 だけど、私を守ってくれる。
 その証だということだけは、良く分かった。
 モノノ怪に限った事ではないっていうのが、ちょっと分からなかったけど。
 でも…







 手の中の紅に視線を落とす。













 薬売りさんから、紅を貰いました。


 桜色の珍しい紅です。













-END-






中途半端な終り方ですいません…
もう色々限界です。

先週更新できなかったので
今回はまとめて。

2010/2/28