幕間第十七巻
〜天秤・参〜










 聞いたか薬売り〜!




 ちゃん、一緒に居てくれるってさ〜!!
 今頃障子の向こうで、いつもの不気味な笑いしてるんだろ?
 盗み聞きとか悪趣味だけどな〜。




 っていうか、ちゃんの思い、ちゃんと受け止めろよ!
 “大切な人”って思ってもらってるんだからな?
 そういうの初めてだろ?






 …僕らも、初めてだよ…






 僕らの主のこと、こんなに想ってくれる人に出会ったの。
 僕らのことも、大切にしてくれる人。
 薬売りはいっつも、誰かと一緒に歩くことはしなかったからね。


 でも、分かるよ。


 ちゃんは、きっと、薬売りにとっても大切な人、なんだよね?


 違ってるかな…











「あれ、薬売りさん!?」


 おうっ!?
 入ってくるのかよ!?


「忘れ物を、したもんで」
「え、あの…」


 白々しい嘘つきやがって。


「天秤、ですよ」


 え、僕かい?
 自分で置いてったくせに。
 仕方ないなぁ…。
 ぴょんと、薬売りの指先に飛び上がる。
 何でか、薬売りは僕を見て笑った。
 ちょっと気味が悪くて、僕は薬売りの肩に逃げた。


「それから…」


 そんなに物忘れが酷いのか、薬売り。
 って、あ…、そういうこと。


 薬売りは、ちゃんに手を差し出した。


「え、私ですか?」
「たまには、付き合ってくれませんか」


 きょとんとするちゃんも、なかなか可愛いなぁ。


「でも、私が一緒じゃ…っ」


 薬売りは有無を言わさずに、ちゃんの腕を引っ張った。
 たまにはそういうのも、悪くないね。


「客なんて、来なくてもいいんですよ」


 薬売りはいつもそんな言い方しかしないんだよな。
 遠まわしで、分かりにくい。
 ほら、ちゃんも困ってるじゃないか。


 ちゃんと言ってあげればいいのに。


 薬売りだって、ちゃんに傍に居てもらいたいんだろ?


 違うの?


 違わないでしょ?






 だって、ほら。




 あんなに…


















-END-









という訳で天秤さん視点でした。
「あんなに…」の後は何でしょうね。
ご想像にお任せして。

2010/5/30