「薬売りさん」
「何ですか」
「その担い箱の中は、どうなってるんですか?」
ちょっとした疑問。
この前、ナントカっていう薬を作ったときの材料。確か十三種類って言ってた。
部屋の散らかりようから見ても、結構な量だった。
他にも薬を作るのに必要な材料は沢山持ってると思うし、元々出来てる薬だって持ち歩いてるわけで…。
しかもあの担い箱の引き出しのうち一段は、天秤さんがひしめいてる。
凄い量の荷物を、薬売りさんはあの箱の中に入れてることになります。
本当に全部入るのか、気になります。
っていうか、中身が気になります。
「どうなってると言われても、薬が入っているとしか、言いようはありませんがね」
「お薬とか材料とか、いっぱい入ってますよね?」
「そりゃあ、もちろん」
「外から見ると、そんなに入るのかなって思うんです」
「入れようと思えば、入るもんですよ」
「はぁ…そういうものですか」
ちょっと納得がいかない。
出来るものなら、その中がどうなってるのか見てみたい。
だけど大事な商売道具が入ってるわけだし、そう簡単には見せてもらえないとも思う。
「それほど、気になるんで」
「えぇっと…はい」
「だったら、見て、みますか?」
「い、いいんですか?」
「吸い込まれても、いいと言うなら…」
「…は…い?」
吸い込まれる、ですか?
箱の中に、ですか?
どうしてですか?
「いえね、実を言うと、この担い箱には、九十九神…アヤカシが宿っているんですよ」
「あの、いつかの直助さんみたいな、道具に宿る?」
「まぁ」
芝居小屋でモノノ怪を斬ったときに、薬売りさんにたばこをくれと言っていた人。
後から薬売りさんに、大煙管っていうアヤカシだったと教えてもらった。
「このアヤカシは、箱の中であらゆるものを、引き受けてくれるんですよ」
「いくらでも…?」
「今のところは」
「…どうやって取り出すんですか?」
「必要なものを感じ取って、引き出しに、並べてくれるんですよ」
「ほ、ホントですか!?」
凄いです!
便利です!!
面白いです!!!
そんなアヤカシもいるんですね!
アヤカシが、人の害になるどころか、力になってくれる。
そう思うと、何だか嬉しかった。
「たまに、気に入ったものなんかを、吸い込んじまう厄介者、ですがね」
「…」
それは、どうだろう。
でも、気に入られてたらの話で、私は今のところ箱と話したことはないし、そんな要素は無いと思う。
「私、気に入られてませんよね?」
「気に入られてます、よ」
「え」
「多分、ね」
「あの、気に入られるとどうして吸い込まれるんですか」
「大事に、仕舞っておきたいんじゃ、ないですか」
「…」
「中を、見ますか」
「いいえ、やっぱり遠慮します。すいません」
軽い恐怖を感じて、担い箱から離れる。
天秤さんに気に入られるならまだしも、箱に気に入られて吸い込まれるのは御免被りたい。
「そりゃあ、残念」
残念って…。
私が吸い込まれてもいいんですか。
「は、早くしないと、次の町に着かないうちに日が暮れてしまいますね」
自分から言い出しておいて何だけど、ここは逃げさせていただきます。
吸い込まれたくはないので。
中身を見るのも、諦めるしかなさそうです。
そんなもの、居るわけないじゃないですか。
この担い箱に、アヤカシが宿っているなんて、信じるとは思いませんでしたよ。
第一、それなら貴女はアヤカシの声を、聞いているはずじゃあ、ないですか。
俺の作り話、ですよ。
ただ、中身をあまり見せたくなかったというだけの話。
若い娘さんには、見せられないものも、ありますからね。
本当に、素直で面白い。
まぁ、そんなアヤカシがいるなら、是非とも宿って欲しいもの、ですがね。
大事なものを仕舞っておけるなら、尚更。
天秤や退魔の剣のように、永遠に俺の傍から離れないものなら、別にいい。
けれど、そうでないものなら、大事に仕舞っておきたいもの、ですね。
傍から、離れないように。
ねぇ、さん…
-END-
箱の大きさと中身の量が気になったので。
担い箱は四次元ポケット説に一票。
今回だけ「行李」じゃなくて「担い箱」なのは
スルーしてください。
2010/6/27