幕間第二十巻
〜担い箱〜











「薬売りさん」

「何ですか」

「その担い箱の中は、どうなってるんですか?」




 ちょっとした疑問。
 この前、ナントカっていう薬を作ったときの材料。確か十三種類って言ってた。
 部屋の散らかりようから見ても、結構な量だった。
 他にも薬を作るのに必要な材料は沢山持ってると思うし、元々出来てる薬だって持ち歩いてるわけで…。
 しかもあの担い箱の引き出しのうち一段は、天秤さんがひしめいてる。
 凄い量の荷物を、薬売りさんはあの箱の中に入れてることになります。

 本当に全部入るのか、気になります。

 っていうか、中身が気になります。




「どうなってると言われても、薬が入っているとしか、言いようはありませんがね」

「お薬とか材料とか、いっぱい入ってますよね?」

「そりゃあ、もちろん」

「外から見ると、そんなに入るのかなって思うんです」

「入れようと思えば、入るもんですよ」

「はぁ…そういうものですか」

 ちょっと納得がいかない。
 出来るものなら、その中がどうなってるのか見てみたい。
 だけど大事な商売道具が入ってるわけだし、そう簡単には見せてもらえないとも思う。

「それほど、気になるんで」

「えぇっと…はい」

「だったら、見て、みますか?」

「い、いいんですか?」








「吸い込まれても、いいと言うなら…」








「…は…い?」

 吸い込まれる、ですか?
 箱の中に、ですか?
 どうしてですか?

「いえね、実を言うと、この担い箱には、九十九神…アヤカシが宿っているんですよ」

「あの、いつかの直助さんみたいな、道具に宿る?」

「まぁ」

 芝居小屋でモノノ怪を斬ったときに、薬売りさんにたばこをくれと言っていた人。
 後から薬売りさんに、大煙管っていうアヤカシだったと教えてもらった。

「このアヤカシは、箱の中であらゆるものを、引き受けてくれるんですよ」

「いくらでも…?」

「今のところは」

「…どうやって取り出すんですか?」

「必要なものを感じ取って、引き出しに、並べてくれるんですよ」

「ほ、ホントですか!?」

 凄いです!
 便利です!!
 面白いです!!!
 そんなアヤカシもいるんですね!

 アヤカシが、人の害になるどころか、力になってくれる。
 そう思うと、何だか嬉しかった。




「たまに、気に入ったものなんかを、吸い込んじまう厄介者、ですがね」




「…」

 それは、どうだろう。
 でも、気に入られてたらの話で、私は今のところ箱と話したことはないし、そんな要素は無いと思う。

「私、気に入られてませんよね?」

「気に入られてます、よ」

「え」

「多分、ね」

「あの、気に入られるとどうして吸い込まれるんですか」

「大事に、仕舞っておきたいんじゃ、ないですか」

「…」

「中を、見ますか」

「いいえ、やっぱり遠慮します。すいません」

 軽い恐怖を感じて、担い箱から離れる。
 天秤さんに気に入られるならまだしも、箱に気に入られて吸い込まれるのは御免被りたい。

「そりゃあ、残念」

 残念って…。
 私が吸い込まれてもいいんですか。

「は、早くしないと、次の町に着かないうちに日が暮れてしまいますね」

 自分から言い出しておいて何だけど、ここは逃げさせていただきます。
 吸い込まれたくはないので。
 中身を見るのも、諦めるしかなさそうです。




































 そんなもの、居るわけないじゃないですか。

 この担い箱に、アヤカシが宿っているなんて、信じるとは思いませんでしたよ。
 第一、それなら貴女はアヤカシの声を、聞いているはずじゃあ、ないですか。
 俺の作り話、ですよ。
 ただ、中身をあまり見せたくなかったというだけの話。
 若い娘さんには、見せられないものも、ありますからね。
 本当に、素直で面白い。

 まぁ、そんなアヤカシがいるなら、是非とも宿って欲しいもの、ですがね。
 大事なものを仕舞っておけるなら、尚更。
 天秤や退魔の剣のように、永遠に俺の傍から離れないものなら、別にいい。
 けれど、そうでないものなら、大事に仕舞っておきたいもの、ですね。

 傍から、離れないように。







 ねぇ、さん…



















-END-






箱の大きさと中身の量が気になったので。
担い箱は四次元ポケット説に一票。


今回だけ「行李」じゃなくて「担い箱」なのは
スルーしてください。

2010/6/27