幕間第二十三巻
〜仮初の・参〜








さん?」




 翌日、町を出ようとしていたに、声が掛けられた。
 薬売りの隣を歩いていたは、その声に振り返る。
 薬売りも必然的に立ち止まる。


「あ、修次郎さん」


 薬売りの鋭い視線が、男に投げかけられた事を、は気付かなかった。
 修次郎は一瞬びくりとしたが、構わずにの元に駆け寄った。


「発つのかい?」
「はい」
「残念だな…」
「まだそんなことを言ってるんですか?」
「いや、嫁に来いって話じゃねえんだ」
「?」
「折角だから、色んな話がしたかったなってな、旦那とも」
 ニカッと薬売りに向けて笑いかける。
 その笑みに、薬売りは僅かに戸惑いを覚える。
 この男は、を嫁にしたいと言っていたはずだ。
「…そりゃあ、残念」
 どう返したものかと考えた挙句、適当に返事をする。
「本当にな」
 何故だかは、二人のやりとりに緊張する。
さんみたいな人が傍に居てくれることが、どれだけ幸せな事かをとくと言い聞かせたかったんだけどな」
「…そんな大袈裟な…」
「そんなことくらい、ちゃんと分かっていますよ」
 口角を上げる薬売りだったが、目は笑ってはいなかった。
「言うじゃねえか」
 これなら大丈夫だな、と薬売りに向かって笑った。


「行きますよ、さん」
 薬売りは修次郎を一瞥してから踵を返した。
「あ、待ってください」
 は修次郎に会釈すると、行李を背負う背中を追った。
















「何だよ、全然脈アリじゃねえのか、あれ」



 ていうか、寧ろ…そうじゃねえのか。



 あれじゃあ、例えさんが承諾してくれても、あいつが許さねえだろうな…。







 修次郎は小さくなっていく二人の後姿を見ながら、そう思った。












-END-










短っ。
予想外に短くて自分でも驚いてます。


こんな感じの二人で、
思わせぶりな薬売りさんです。


2010/8/1


もう八月かぁ…