幕間第二十五巻
〜幻〜








あなたに逢いたくて
いつも追い求めてた
幻に願いかけた

今すぐここに来て
きつく抱きしめてほしい
届かない… 届かない…








 口ずさんだのは、前に聞こえてきたことのある歌。
 切なくて、覚えてしまった。

 紗和さんの想いと重なっているような気がして、小さく歌った。


 紗和さんがずっと待っていた、神社。
 落ちて行き着いた階段下。
 しゃがみこんで、花を供える。
 それから手を合わせる。

「今の歌は」

 声のした方を見るけれど、夕日が眩しくて目を細めた。
 逆光で真っ黒に見える人影は、ゆっくりと近付いてくる。
 そのお陰で夕日が遮られる。
 確かめなくても、誰かは分かる。

「何だか、紗和さんの気持ちに似てた気がしたので」

 もう一度、口ずさむ。


今すぐここに来て
きつく抱きしめて欲しい
届かない… 届かない…


「ね?」

「そう、ですね」

 すぐ傍まで来た薬売りさんに合わせて、私も立ち上がる。

「二人は、何処かで再会できたでしょうか…」

「さぁて」

 死んでしまっても、誰かを想い続ける。
 私には…。

「でもこの歌、きっと別れる歌なんですよ」

 薬売りさんが、そろりと私の方を見る。

「外は強く激しい雨 一人生きてく…って終るんです」

 そんな歌を、紗和さんに手向けるなんて、酷なことかもしれない。
 誓い合った二人なのに、現世で結ばれることはなかった。
 でも…

「例え大切な人との別れが来ても、私は先に進みたいし…そうしてきました」

 だから、二人にも生きていてもらいたかった。
 生きていれば、何か変わったかもしれないから。

「私は酷ですか?」

 私の問いに、薬売りさんは目を閉じた。

「例えば、俺と別れることになっても、ですか」

「はい」

 そんなこと、絶対あってほしくないけど。

「泣いて、泣いて、泣いて…涙が枯れるくらいに泣いて、もう声も出ないってくらい泣いて、それで目の腫れが引いたら、また前を向きます」

 だって、別れて終わりじゃないから。
 何かがあるから。


 きっとずっと、薬売りさんはいつまでも私の大切な人だろうけど。


 薬売りさんは、目を開ける。
 私を見るなり、口角を上げる。

「では、泣かせないように、しなくては」

 その言葉は、本当ですか?

 涙が出そうになった。

「道が別れても、大切に思うことは、できますよ」

「?」

「酷では、ありませんよ、貴女は」

 そっと、薬売りさんの袖を掴んだ。




「もうすぐ、神輿の奉納が、始まりますよ」

「はい」












淡く浮かんでる 想い…

あなたに逢いたくて
いつも追い求めてた
幻に願いかけた

今すぐここに来て
きつく抱きしめて欲しい
届かない… 届かない…

一人じゃ寂しくて
あなたを求めていた
どうか許されるのなら

二人を切り裂いた
言葉を一つ消して
さよなら… さよなら…

外は強く激しい雨 一人生きてく
















Needless Lyrics 「幻」









-END-










轆轤首よりも先に書いてしまった話。
本当はこれが幕引きの予定でした…

でもヒロインに薬売りさんとの事を
考えて欲しくて新たに幕引きを作ってしまって
あぶれたので幕間になってしまいました…

残念な感じで。

これで轆轤首終わりです。
お付き合いいただきありがとうございました!

2010/10/10