ジジジッと音を立てて、蝋燭が消えた。
その部屋の唯一の光源だった。
もう、夜半過ぎ。
月も雲に隠れていて、殆んど闇のような世界。
は、眠れずに居た。
布団に入って目を閉じて、どれくらい経ったか。何回寝返りをうったのか。
あれ以来、暗闇では眠れなくなった。
芝居小屋での一件以来、行灯に火を灯したままでないと、恐くて眠れない。
あの暗闇を思い出す。
例え一瞬のことであっても、あの真っ暗な世界の中に一人放り出されたことは、の中で、ちょっとしたトラウマになってしまった。
もちろん、モノノ怪も恐いのだが、闇の恐怖は同等、もしかしたらそれ以上だったかもしれない。
あの一件の直後に泊まった宿で、寝ようと思って火を消したはいいが、何故だか恐くて眠れなかった。
それ以来、行灯の火を消せなくなった。
闇に、飲み込まれそうな気がして、酷く心拍数が上がる。
は、ため息をついてから身体を起こす。
それから枕元に静かに佇む天秤を手に乗せる。
宿を取って最初に部屋に入るとき、薬売りが貸してくれるようになったのだ。
掌に天秤を乗せたまま立ち上がると、は障子を開けて縁側に出た。
今回取った部屋は一階にある。
縁側の下に置いてある下駄を履いて、小さな中庭に降りる。
月は見えないが、部屋の中よりは明るく感じられる。
掌の天秤を、両手で軽く包み込んで、軽く息を吐く。
すると、手の中で天秤が動いた。
「え…!?」
まさかモノノ怪だろうか。
は手を開いて、天秤を解放してやる。
しかし天秤は傾くことなく、ぴょんぴょんと跳ね始めた。
「天秤さん?」
尖った足先なのに、掌で跳ねられても痛くない。
何度か掌で跳ねた後、高く飛び上がっての肩や頭を廻って行く。
「え…ちょっと」
何が何だか分からないは、小さく戸惑いの声を上げる。
くるくる回って、を廻って、再び掌に戻る。
そうしてをじっと見つめるように、上向きになる。
「…励ましてくれてるの? 暗くても、天秤さんがいるからって?」
の問いに、天秤は小さく跳ねる。
そういうことなのだろう。
「ありがとう」
は微笑んで、もう一度天秤を包み込む。
いつもはじっと動かない天秤が、の心のうちを察して元気付けてくれた。
「君は、優しいね」
そう言うと、は部屋に戻った。
外よりも暗い部屋の中。
部屋の隅の方は真っ暗で何も見えない。
恐いことに変わりは無いけれど、一人じゃないと分かった。
すぐ傍に、天秤がいる。
隣の部屋には、あの人が居る。
あの闇の中、呼ぶとすぐに答えてくれた。
薬売り。
ちゃんと見つけてくれて、傍に居てくれた。
は天秤も一緒に布団の中に入れると、今度こそ眠りに落ちていった。
-END-
短いですね。
ここから、ヒロインと天秤の仲が…違
2009/10/12