幕間第三十一巻
〜結び紐・弐〜







 宿を後にすると、薬売りは“寄りたいところがある”と言っての前を歩いた。
 何処に向かっているのかも教えてもらえず、はただ付いて行くことしか出来ない。


「薬売りさん?」


 背中に呼びかけても、答えてはくれない。
 宿を出るとき、少し用がある、とだけ言っていた。
 面白くないというような顔をしながら、は歩いていた。



 町を出て少し行くと、萱葺きの家がの目に留まった。

「ここで、待っていてください」
「え…?」

 そう言い置いて、薬売りはその家に向かった。
 は大人しく言われたとおりにする。

 薬売りが戸を叩くと、中から男が現れた。
 遠目でよく分からないが、どちらかというと若く見える。

 二人は二言三言言葉を交わして、家の中に入っていった。

「ちょっと…! 何ですか、それ!」

 一人残されたは、批難の声を上げる。
 何か言ってやろうと足を踏み出すも、はた、と我に返る。

 後で薬売りに何を言われるか。

 思い直して元居た場所に戻る。
 そして盛大な溜め息をつく。


「もう、何なんですか…」


 宛てのない問いが、消えた。




 がぶつぶつと言っている間に、薬売りは家から出てきた。
 戸口には先ほどの男。
 どちらも、嬉しそうに見えるのは何故か。


「薬売りさんが嬉しそうだなんて…」


 珍しいとばかりに、は二人を見ている。


 の視線に気付いたのか、男がに向かって会釈をした。
「!!」
 は慌てて会釈をし返すのだが、何が何だか分からない。
 そんなを、薬売りはちらりと振り返る。
 そうしてまた、男二人は言葉を交わす。

 そして互いに軽く頭を下げると、薬売りは男に背を向けての元へ戻ってきた。

「どなたですか?」
「いえね、ちょっとした、知り合いですよ」
「…紹介はしてくれないんですか?」

 良月のときのように。

「何れ…」
「え、だってもうここを離れるんですよね?」
「何れ、しますよ」
「…???」

 困惑するを他所に、薬売りは歩き出した。

「あ、待ってください」

 慌ててそれを追いかける

 去り際にちらりと家の方を見ると、男はまだ戸口に立ちこちらを見ていた。
 が何とはなしにもう一度会釈をすると、男も会釈を返してくれた。





















「あの方ですか?」
「まぁ」
「日の光で髪が輝いていますね。遠目ながらにも綺麗な髪だと分かります」
「そう、ですね」
「出来ればお顔も拝見したいところですが…」
「…」
「ここまで連れて来ないということは、やはりそういうことですか」
「どういう、ことで」
「いえ、こちらの話です。ご注文の品、出来上がっていますよ」














-END-










オチというものはありません。

2010/12/19