ぼんやりと、川を眺める。
毎日毎日、そうしてる。
でも、昨日はいつもとは違った。
人と喋った。
今日も、その予定ではいる。
来てくれるかなんて、分からないけど。
「お莉津さん」
昨日よりも遅い時刻だった。
ちょうど、アタシが話し終えた夕日が目に沁みる角度まで落ちた頃。
振り向くと、さんの隣に見知らぬ男が立っていた。
派手な出で立ちで、ちょっと…いえ、凄く妖しい人だ。
「…? その人…」
「薬売りさんです。一緒に旅をしてます」
はにかんだ顔が、何だか可愛かった。
“一緒に旅をしてる”なんて、遠まわしな言い方して。
ちょっとだけ癪だったけど、結構お似合いだから何も言わないであげた。
「で、宿題の答えは?」
アタシの問いかけに、さんは薬売りさんの方を見る。
薬売りさんの方もさんと視線を合わせる。
「さっき、三橋屋さんに行ってきました」
「…え?」
「お莉津さんの友人だと言って、お線香を上げさせていただきました」
「何でそんなこと」
「そうしなけりゃ、話が、聞けませんからね」
「話って?」
どういう事だろう。
アタシは考えて来てって言ったつもりだったのに。
どうしてわざわざアタシの家まで。
「貴女が亡くなった後、正衛門さんは、諒太郎さんを養子に迎えたそうです」
「え?」
「互いに互いの肉親を殺しておいて、と始めは奇異の目で見られたらしいです」
「そんなの、当たり前じゃない!」
「でも二人は、それを互いへの贖罪にしようとしているんです」
「贖罪…」
「正衛門さんは、諒太郎さんを店の跡取りとすることで。諒太郎さんは、店の発展に尽力する事で、自らの罪を、償おうと、しているんですよ」
そんな事が出来るわけ…
「貴女のお陰だと、言って、いましたよ」
「アタシの…?」
「貴女の言葉で、二人とも、救われたのだと」
そんなの…
「お莉津さん、貴女の気持ちは二人に届いています」
「アタシの気持ち?」
「幸せだったって。正衛門さんも諒太郎さんも、誰もが幸せに生きられるような、そんな世にしたいって。貴女が、幸せだったように」
だってアタシは幸せだったから、そう伝えただけなのに。
「正衛門さんは昔見捨ててしまった職人さんたち謝罪をして、また少しずつ仕事を任せるようになったらしいです」
「諒太郎さんは、いざこざが起きぬよう、その間に入って橋渡し役を、していますよ」
涙が溢れてきた。
互いの肉親を殺し合った父とあの人が、手を取り合って人の為に動いているなんて。
そんなの信じられない。
もっと恨みあって、もっと憎みあっていると思っていたのに。
「二人を導いたのは、お莉津さん、貴女、ですよ」
涙で滲んだ視界で、さんと薬売りさんを見た。
さんも、目を赤くしている。
薬売りさんは、少しだけ口の端を上げている。
「…よかった…」
変なの。
死んでるのに、声が掠れるなんて。
さんが傍に来て、そっとアタシを抱きしめてくれた。
触れたところが温かくて、これが生きてる人の温度だと思った。
もう、アタシには無いもの。
「お莉津さん…」
「ありがとう、さん、薬売りさん」
少しずつ、意識が遠のいていく。
もしかして、これでアタシは成仏できるのかもしれない。
この夕日とも、川の流れとも、お別れなんだ。
それでも、もう本当に、思い残す事なんてない。
だけど、一つだけ言わせて。
最期に出来た、綺麗で不思議な友達に…
耳元で小さく囁くと、驚いたように目を丸くした。
でも、すぐに頬を染めて、困ったように微笑んだ。
「貴女も、どうか幸せに」
-END-
綺麗過ぎる話。
普通家族殺した、殺された同士が仲良くなんてできないと思う。
多分二人には相当な葛藤があったと思います。
描写はないけど。
2011/7/3