幕間第五十巻
〜眼差し〜





“薬売りさんを守りたい”




 その言葉、その眼差しに打ち抜かれた。
 そう言っても過言ではない。



 守りたいと言われた事は、これまで一度もない。
 故意ではなく、形として誰かを守った事はあるにせよ、誰かに守られる事は、これまでなかったし、この先もないと思っていた。


 俺がさんを守る事は、当然の事、自然な流れだ。
 今までに感じたことのない感情が、そうさせた。

 大切だから守りたい、傷つけたくない、失くしたくない。
 ただそれだけの事。





 何を思って俺を守りたいという考えに至ったのかは分からない。


 比べてみても、さんは俺よりも非力だ。
 中には男勝りの女もいるだろうが、さんはそれではない。
 けれど、守りたいのだと言う。









 いや。








 同じ、なのかもしれない。






 俺と同じ。







 たった今、自分で言った事だ。




“大切だから守りたい”





 さんも、そう、思ってくれている…。





“傷つけたくない。失くしたくない”





 自意識過剰だろうか。
 それでも、守りたいと言ってくれたあの瞳は本物だったと思う。


 その強い眼差しで俺を見てくれる。
 同じ想いを抱いてくれる。


 そんな人と出会ったのは、初めてだ。


 彼女の他に、こんなことを思ったことはない。


 長い時間を生きて来て、初めてのことだ。







 きっと、最初で最後のことだと思う。








 だから決して…彼女を、離してはけない。








 やはり彼女は、“特別”なのだと思う。

















 とはいえ、さんが俺を守れるようになるとは、正直思えない。
 あの狐が憑いているのだから、“そういうもの”を全く持っていない訳ではないだろう。
 けれど、それを何処まで引き出せるのか。

 いや、俺にそんなことが出来るのかさえ分からない。

 真言を唱えるわけでも、刀を振るうわけでも、何でもない。
 そんな俺が、彼女に何を教えてやれるのか。



 これは、相当な大仕事になりそうだ。
















-END-











一瞬、SOPHIA曲名でお題の「大切なもの」にでもしてやろうかと思った。

けど、お題はお題でいつかちゃんと書きたいので回避。


幕間五十話達成!!

2012/4/29