“薬売りさんを守りたい”
その言葉、その眼差しに打ち抜かれた。
そう言っても過言ではない。
守りたいと言われた事は、これまで一度もない。
故意ではなく、形として誰かを守った事はあるにせよ、誰かに守られる事は、これまでなかったし、この先もないと思っていた。
俺がさんを守る事は、当然の事、自然な流れだ。
今までに感じたことのない感情が、そうさせた。
大切だから守りたい、傷つけたくない、失くしたくない。
ただそれだけの事。
何を思って俺を守りたいという考えに至ったのかは分からない。
比べてみても、さんは俺よりも非力だ。
中には男勝りの女もいるだろうが、さんはそれではない。
けれど、守りたいのだと言う。
いや。
同じ、なのかもしれない。
俺と同じ。
たった今、自分で言った事だ。
“大切だから守りたい”
さんも、そう、思ってくれている…。
“傷つけたくない。失くしたくない”
自意識過剰だろうか。
それでも、守りたいと言ってくれたあの瞳は本物だったと思う。
その強い眼差しで俺を見てくれる。
同じ想いを抱いてくれる。
そんな人と出会ったのは、初めてだ。
彼女の他に、こんなことを思ったことはない。
長い時間を生きて来て、初めてのことだ。
きっと、最初で最後のことだと思う。
だから決して…彼女を、離してはけない。
やはり彼女は、“特別”なのだと思う。
とはいえ、さんが俺を守れるようになるとは、正直思えない。
あの狐が憑いているのだから、“そういうもの”を全く持っていない訳ではないだろう。
けれど、それを何処まで引き出せるのか。
いや、俺にそんなことが出来るのかさえ分からない。
真言を唱えるわけでも、刀を振るうわけでも、何でもない。
そんな俺が、彼女に何を教えてやれるのか。
これは、相当な大仕事になりそうだ。
-END-
一瞬、SOPHIA曲名でお題の「大切なもの」にでもしてやろうかと思った。
けど、お題はお題でいつかちゃんと書きたいので回避。
幕間五十話達成!!
2012/4/29