安らかに眠る貴女は、とても愛らしく…
それでいて、とても残酷だ…
二つ床を並べて寝るのは、今に始まった事じゃあない。
怖がりな貴女を、放っておけなかった。
半ば強引に、別々に取っていた部屋を、一つにした。
床に就くときは、間に衝立を立てて互いが見えないようにした。
寝息こそ聞こえたが、それも特に気にしてはいなかった。
けれど、今、その衝立はない。
取り去ってみて初めて、衝立がいかに重要だったか思い知った。
何せ、すぐ隣に貴女が見えるのだ。
俺の大切な、いつも傍にいて、笑ってくれる。
そんな貴女が、すぐ隣で静かに寝息を立てている。
思っていた以上の威力だ。
たまに寝返りを打ってこちらを向いたとき。
無防備な顔。
頬に掛かる艶やかな髪。
微かに開いた唇。
緩んだ着物の袷。
拷問に思える。
背を向けられたとき。
布団が形作る緩やかな曲線。
微かに覗く海路。
細い背中。
試されている。
大切だと思っているのに、よからぬことが頭を掠める。
忘れているわけじゃあないけれど、自分が、男だと言うことを自覚する。
貴女はきっと、何も分かっちゃあいないんでしょう。
いや、少しくらいは、分かっているのかもしれない。
あの時、確かに何かに思い当たった顔をしていた。
きっと、気付いているはず。
けれど、まだ、そこまでを求めてはいない。
と言うより、恐れている。
そんなことくらいは、分かる。
俺も、今はまだそういう時ではないと思っている。
けれど、せめて。
眠る貴女を眺める事は、許して欲しい。
月明かりに照らされた貴女を。
暗闇に溶けてしまいそうな貴女を。
俺の傍で眠る貴女を。
好きなだけ眺められるのは、俺だけの特権。
そうしてたまに、貴女の頬に触れる。
指先で貴女の唇に触れる。
それくらいのことは、許して欲しい。
貴女に好きだと言われた、俺だけの特権。
-END-
実は薬売りさんは男だった…!殴
薬売りさんの独白は難しい…
2012/7/29