幕間第五十四巻
〜威力と特権〜







 安らかに眠る貴女は、とても愛らしく…


 それでいて、とても残酷だ…








 二つ床を並べて寝るのは、今に始まった事じゃあない。
 怖がりな貴女を、放っておけなかった。
 半ば強引に、別々に取っていた部屋を、一つにした。

 床に就くときは、間に衝立を立てて互いが見えないようにした。
 寝息こそ聞こえたが、それも特に気にしてはいなかった。

 けれど、今、その衝立はない。

 取り去ってみて初めて、衝立がいかに重要だったか思い知った。



 何せ、すぐ隣に貴女が見えるのだ。



 俺の大切な、いつも傍にいて、笑ってくれる。

 そんな貴女が、すぐ隣で静かに寝息を立てている。


 思っていた以上の威力だ。





 たまに寝返りを打ってこちらを向いたとき。

 無防備な顔。
 頬に掛かる艶やかな髪。
 微かに開いた唇。
 緩んだ着物の袷。

 拷問に思える。



 背を向けられたとき。

 布団が形作る緩やかな曲線。
 微かに覗く海路。
 細い背中。

 試されている。




 大切だと思っているのに、よからぬことが頭を掠める。




 忘れているわけじゃあないけれど、自分が、男だと言うことを自覚する。




 貴女はきっと、何も分かっちゃあいないんでしょう。




 いや、少しくらいは、分かっているのかもしれない。



 あの時、確かに何かに思い当たった顔をしていた。



 きっと、気付いているはず。




 けれど、まだ、そこまでを求めてはいない。


 と言うより、恐れている。


 そんなことくらいは、分かる。

 俺も、今はまだそういう時ではないと思っている。







 けれど、せめて。



 眠る貴女を眺める事は、許して欲しい。




 月明かりに照らされた貴女を。

 暗闇に溶けてしまいそうな貴女を。

 俺の傍で眠る貴女を。


 好きなだけ眺められるのは、俺だけの特権。




 そうしてたまに、貴女の頬に触れる。


 指先で貴女の唇に触れる。





 それくらいのことは、許して欲しい。







 貴女に好きだと言われた、俺だけの特権。




















-END-







実は薬売りさんは男だった…!殴





薬売りさんの独白は難しい…

2012/7/29