幕間第六十一巻


〜天秤の憂鬱・参〜





 夜が明け始めた頃、背中の方での声が聞こえた。
 それで、俺の厳戒態勢が解かれた。

「…ん…。あ、薬売りさん。おはようございます」

 まだ目が覚めきらないらしく、鼻声のまったりと蕩ける様な声だ。
 こんな声、薬売りに聞かせていいのか?

「おはよう、ございます」

 対して薬売りはいつもと変わらない。
 すぐさま返事をした所を見ると、一寸前から起きてたんだな。
 で、また寝顔を見てたと。
 何か、悪趣味だな。

「…あれ? 帰ってたんですか?」

「えぇ、昨夜遅くに」

 “貴女を眺める為ですよ”とかサラっと言える奴だよ、お前は。

「商談相手が、大分悪酔いを、しましてね。店の人に任せて、退散してきたんですよ」

「うわぁ、それは大変でしたね」

 しれっと嘘をつくな、嘘を。

「夜が明けきるまで、まだ、間がありますね」

「? そうですね…」

「もう一眠り、しませんか」

「昨夜、遅かったんですもんね」

 は小さく微笑んで、薬売りの提案を受け入れた。
 そうして何でか二人向き合ったまま目を閉じた。

 だ、か、ら。
 俺の存在忘れてねぇか!?

 もういいだろって、お前居るんだから!
 もう一眠りじゃないだろっ!!

 俺を皆の所に戻しやがれ〜〜〜〜!!

















END







お気の毒様です…

短いので、「参」というより「おまけ」的な感じです。

2013/10/13