あの後、薬売りさんは小さく微笑んだ。
微笑むと言っても、多分、私にしか分からない位のもの。
私はと言うと、戸惑いとか嬉しさとか、恥ずかしさとか、色んな気持ちがごちゃごちゃして、何にも出来なくて、動けなかった。
薬売りさんはそんな私の手を取って、歩き出した。
半ば引っ張られるようにして、私は漸く動き出すことが出来た。
薬売りさんの後ろを、俯きながら歩いた。
引かれる手が、とても熱かった。
それでも次第に嬉しさがこみあげてきて、笑っていた。
笑ったというか、多分、にやけてた。
最後にはちょっとだけ、涙が滲んだ気もした。
薬売りさんがちらりとこっちを振り返ったとき。
自分がどんな顔をしてたのか分からなかったけど。
でも、薬売りさんは目を細めて、ちょっと嬉しそうだった。
それを見たら何だかくすぐったくて。
急に涙が溢れてきた。
ちょっと涙目ってくらいから、それはもうボロボロ溢れ出て。
自分でもどうしていいか分からなくなった。
そうしたら、薬売りさんが向い合せに立ち止まった。
少しだけ首を傾げて、私を見下ろす。
涙を拭おうとした私の手を、薬売りさんは制した。
そうして薬売りさんの手が、頬を覆った。
親指で、優しく涙を拭ってくれた。
「泣くほどの、ことですか」
少し呆れたような声。
「私には、泣くほどのことなんです」
「俺が、貴女を好きだと言ったことが」
それに大きく頷いて見せる。
「俺との、口付けが」
ちょっとだけ躊躇いながら頷いて見せる。
「そう、ですか」
「だって…」
嬉しいんだから仕方がない。
想いが通じ合っている証だから。
胸がいっぱい過ぎて、言葉にならなかった。
「そりゃあ、こちらとしても、嬉しいこと、ですよ」
口角を上げる薬売りさん。
それにつられて、私も笑む。
そして薬売りさんの顔が近づいてくる。
あ、と思って目を伏せる。
頬を流れる涙を、薬売りさんの唇が拭ってくれたようだった。
-END-
2014/8/31
2014/9/7 脱字修正