鉄格子の向こうにさんの姿を見た時、すぐに抱きしめてしまいたかった。
格子越しのさんは少しやつれて、触れた頬はとても冷たかった。
もっと早く見つけていれば、と自責の念に駆られた。
さんを抱きしめた時、心の底から安堵した。
この手の中にさんがいる。
怪我もなく、無事な姿の。
やつれたとは言え、思っていた以上に元気そうだった。
聞けば、連れ去られたものの、蔵に閉じ込められたままだったらしい。
特に何をされるでもなく。
順に呼ばれ、織哉に生気を吸われる。
他には何もなかったらしい。
それにも、安堵する。
男の手中に落ちれば、最悪の事態を招くこともある。
相手がモノノ怪であろうと、女に恨みがあれば、何をするか分からない。
正直に言うと、さんがいなくなったと分かった時、内心たまったものではなかった。
若い娘が姿を消す。
そう聞けば誰もが攫われたと思うだろう。
誰に。
男に。
そうなれば、自然と思い至ってしまう。
さんの身が危ない。
もし、自分でもまだ触れていないさんに、誰かが触れたら。
もし…
そこまで考えて、思考を絶った。
誰にも触れさせない。
そう、決意した。
さんのお陰でモノノ怪を斬ることが出来た。
捕まっていた女たちには、誰の身にも、最悪の事態は起こっていなかった。
織哉が求めていたものが、それではなかった証だ。
貞操を失った女子は、それまでのような生活はできまい。
不幸中の幸いというやつか。
朝日の中で、清々しい顔をするさん。
何故だか、癪だった。
分かっているのだろうか。
どれほど心配したのか。
分かっているのだろうか。
俺が、どれほど、貴女を想っているか。
分かっているのだろうか――。
そう思ったら、口付けていた。
少しかさついた、けれど柔らかい唇。
微かに震えていた。
強張った彼女の身体が、免疫がないのだと報せる。
一層、何事もなくてよかったと、心底安堵した。
そうして、さんがこの腕の中にいることを嬉しく思った。
誰にも、触れさせない。
誰にも、穢させない。
もう一度、固く決意した。
END
とりあえずこれで桂男関連は終わりです。
2014/9/7