幕間第六十七巻
〜決意〜







 鉄格子の向こうにさんの姿を見た時、すぐに抱きしめてしまいたかった。


 格子越しのさんは少しやつれて、触れた頬はとても冷たかった。
 もっと早く見つけていれば、と自責の念に駆られた。

 さんを抱きしめた時、心の底から安堵した。
 この手の中にさんがいる。
 怪我もなく、無事な姿の。
 やつれたとは言え、思っていた以上に元気そうだった。


 聞けば、連れ去られたものの、蔵に閉じ込められたままだったらしい。
 特に何をされるでもなく。
 順に呼ばれ、織哉に生気を吸われる。
 他には何もなかったらしい。

 それにも、安堵する。

 男の手中に落ちれば、最悪の事態を招くこともある。

 相手がモノノ怪であろうと、女に恨みがあれば、何をするか分からない。


 正直に言うと、さんがいなくなったと分かった時、内心たまったものではなかった。
 若い娘が姿を消す。
 そう聞けば誰もが攫われたと思うだろう。

 誰に。
 男に。

 そうなれば、自然と思い至ってしまう。


 さんの身が危ない。



 もし、自分でもまだ触れていないさんに、誰かが触れたら。

 もし…


 そこまで考えて、思考を絶った。



 誰にも触れさせない。



 そう、決意した。











 さんのお陰でモノノ怪を斬ることが出来た。
 捕まっていた女たちには、誰の身にも、最悪の事態は起こっていなかった。
 織哉が求めていたものが、それではなかった証だ。
 貞操を失った女子は、それまでのような生活はできまい。
 不幸中の幸いというやつか。


 朝日の中で、清々しい顔をするさん。
 何故だか、癪だった。

 分かっているのだろうか。


 どれほど心配したのか。



 分かっているのだろうか。


 俺が、どれほど、貴女を想っているか。



 分かっているのだろうか――。









 そう思ったら、口付けていた。





 少しかさついた、けれど柔らかい唇。
 微かに震えていた。
 強張った彼女の身体が、免疫がないのだと報せる。

 一層、何事もなくてよかったと、心底安堵した。

 そうして、さんがこの腕の中にいることを嬉しく思った。




 誰にも、触れさせない。


 誰にも、穢させない。





 もう一度、固く決意した。






















END













とりあえずこれで桂男関連は終わりです。


2014/9/7