すぐ隣で寝息を立てるさん。
さっきまでの怯えた顔なんて嘘のように、穏やかな顔をしている。
躊躇いがちに、左手で俺の着物の袷を掴んで、もうすっかり夢の中だ。
残念ながら、腕枕とはいかなかった。
けれど、自分で肘枕をして、上からさんの寝顔を眺めるのも悪くはない。
さんには、“あまり見るな”と言ってしまったが、見る側ともなれば話は別だ。
しかし、見るだけでは済まなそうだ。
手持無沙汰な右手が、動いていた。
まずは髪を梳いてみる。
漆黒の髪は、面白いように指を滑っていく。
顔にかかったその髪を避ける。
同じ色の睫毛が、微かに震える。
起こさないよう、その頬に触れる。
さっきまで、あれ程血色がよかったのに。
今は冷気に触れて、白く戻りつつある。
僅かに開いた唇。
漸くそこに触れられたのは、つい先日。
無意識に、指先で触れていた。
あの時のかさついた感じはなかった。
しっとりとして、柔らかい。
ちらりと、閉じた瞼を盗み見る。
規則的な寝息を確認する。
触れても、いいだろうか。
“何もしない”なんて、大法螺吹きだ。
もう一度起きていないか確認して、肘枕を崩した。
そっと、唇で唇に触れてみた。
すぐに離して、さんの様子を伺う。
微かに身を捩っただけで、特に変化はなかった。
それに安堵する。
けれど、変化は自分の中にあった。
ざわついているのは、胸の奥の方。
ただ軽く触れただけだというのに
こんなにも…
もう一度、唇に指で触れる。
ここに触れたいという欲求。
相手が寝ていることへの罪悪感。
けれど、どうしようもない。
愛おしくて仕方がない。
触れたくて、触れたくて仕方がないのだ。
もう一度唇を塞ぐ。
さっきよりも少しだけ長く。
END
これにて2014年の更新は最後にさせていただきます。
今年も一年、本当にありがとうございました。
2014/12/21