幕間第九巻
〜恐いのでしょう?〜













「…どういうことですか?」


 恐る恐る尋ねてみる。


「何が、ですか」


 やっぱり聞き返された。














「部屋です。どうして一部屋なんですか?」
「嫌、ですか」
 ぶっ。嫌な訳じゃないから困る。
 寧ろ…安心する?
 いやいや。
「そ、そういう問題じゃなくて」
 どう考えたって、男と女が一緒の部屋ってダメでしょう。
 私達は何でもないんだから。
 薬売りさんのことを信用してない訳じゃなくて。
  世間体というか、世間体というか、世間…。


「俺は、構わないんですけどね」


 ぶっ。それは私のことは別に気にならないということですか。
「私が構います」
「何もしや、しませんよ」
 自信満々…。
「当たり前です!」
 私だけ狼狽えててちょっと癪。
「先日は、一部屋でいいと、言ってはいませんでしたか」
「あれは例外です。余りにもモノノ怪の声が酷かったからでしょう?」
「あの日限定、ですか…」
「当たり前です!」
 何を言っているの、この人は。
 分からない。


「どうしてそこまで…」
「二人部屋なら、割り勘にしても、一人部屋より安く付く」
「…」
 それって、私の懐事情を気にしてくれてるってことですか。
 情けなさすぎる!!
 同等だと思ってもらえてないってことですか!?
 行く街、行く街で働き場所探して働いてる私を、可哀相だとか思ったってことですか!?


 それはちょっと、さすがに傷つく…。
 働くことは嫌いじゃないし、旅がしたいもの。
 どんどん項垂れてく。


「俺も、助かるんでね」
「え…」
「出るものは、少ない方がいいとは、思いませんか」
 確かに。
 いやいや。
「それはそうですけど…でも」
 やっぱり、男の人と同室っていうのは。
「そこまで拒みますか」
 溜め息を吐く薬売りさん。うんざりしてる。
「ならば、はっきり言いましょう」
 何を…。
 体中に力が入る。
 何を言われるんだろう。











「恐いのでしょう?」









「え」
「本当は、恐いのでしょう?」
 あの町で、あの宿で、確かに私は恐いと言った。
「守ると、俺は言った」
「はい…」
「だから、いつでも守れる距離に、居てもらいたいんですよ」
 言葉が、出ない。
 そんな風に考えていてくれたんですか?
 私が吐いた、ただの勝手な弱音なのに。
 それを、ちゃんと受け止めてくれるんですか?
 じんわりと、温かい。


「何故、泣くんですか」
「泣いてなんか…」
 言いかけて、はたと、頬が濡れていることに気付いた。
 慌てて目元を押さえる。
「なんで」
 自分でも、涙の意味が分からない。
 守ってもらえることが、そんなに嬉しい?
 今まで一人でやってきて、誰かと一緒にいられるから?
 そんなに庇護してもらえることが嬉しいの?
 違う、そんな理由じゃない気がする。
 もっと違う気持ちがある。
 そんな気がした。


「可笑しな人だ」


 薬売りさんはいつものように静かに笑っている。


「く、薬売りさんにだけは言われたくありません!」
 





 そうして、一部屋なのか二部屋なのかうやむやになって、結局一部屋になったとかならなかったとか。











-END-







そんなこんなでこんな展開。
だからってそんなことにはなりません。残念ながら…


2009/12/19