「…どういうことですか?」
恐る恐る尋ねてみる。
「何が、ですか」
やっぱり聞き返された。
「部屋です。どうして一部屋なんですか?」
「嫌、ですか」
ぶっ。嫌な訳じゃないから困る。
寧ろ…安心する?
いやいや。
「そ、そういう問題じゃなくて」
どう考えたって、男と女が一緒の部屋ってダメでしょう。
私達は何でもないんだから。
薬売りさんのことを信用してない訳じゃなくて。
世間体というか、世間体というか、世間…。
「俺は、構わないんですけどね」
ぶっ。それは私のことは別に気にならないということですか。
「私が構います」
「何もしや、しませんよ」
自信満々…。
「当たり前です!」
私だけ狼狽えててちょっと癪。
「先日は、一部屋でいいと、言ってはいませんでしたか」
「あれは例外です。余りにもモノノ怪の声が酷かったからでしょう?」
「あの日限定、ですか…」
「当たり前です!」
何を言っているの、この人は。
分からない。
「どうしてそこまで…」
「二人部屋なら、割り勘にしても、一人部屋より安く付く」
「…」
それって、私の懐事情を気にしてくれてるってことですか。
情けなさすぎる!!
同等だと思ってもらえてないってことですか!?
行く街、行く街で働き場所探して働いてる私を、可哀相だとか思ったってことですか!?
それはちょっと、さすがに傷つく…。
働くことは嫌いじゃないし、旅がしたいもの。
どんどん項垂れてく。
「俺も、助かるんでね」
「え…」
「出るものは、少ない方がいいとは、思いませんか」
確かに。
いやいや。
「それはそうですけど…でも」
やっぱり、男の人と同室っていうのは。
「そこまで拒みますか」
溜め息を吐く薬売りさん。うんざりしてる。
「ならば、はっきり言いましょう」
何を…。
体中に力が入る。
何を言われるんだろう。
「恐いのでしょう?」
「え」
「本当は、恐いのでしょう?」
あの町で、あの宿で、確かに私は恐いと言った。
「守ると、俺は言った」
「はい…」
「だから、いつでも守れる距離に、居てもらいたいんですよ」
言葉が、出ない。
そんな風に考えていてくれたんですか?
私が吐いた、ただの勝手な弱音なのに。
それを、ちゃんと受け止めてくれるんですか?
じんわりと、温かい。
「何故、泣くんですか」
「泣いてなんか…」
言いかけて、はたと、頬が濡れていることに気付いた。
慌てて目元を押さえる。
「なんで」
自分でも、涙の意味が分からない。
守ってもらえることが、そんなに嬉しい?
今まで一人でやってきて、誰かと一緒にいられるから?
そんなに庇護してもらえることが嬉しいの?
違う、そんな理由じゃない気がする。
もっと違う気持ちがある。
そんな気がした。
「可笑しな人だ」
薬売りさんはいつものように静かに笑っている。
「く、薬売りさんにだけは言われたくありません!」
そうして、一部屋なのか二部屋なのかうやむやになって、結局一部屋になったとかならなかったとか。
-END-
そんなこんなでこんな展開。
だからってそんなことにはなりません。残念ながら…
2009/12/19