短編













 風がふわりと雪を舞い上げた。


 ゆるゆると降る雪は、いとも簡単に宙を行く。



「綺麗ですね、薬売りさん」



 前を行くさんは、両手を広げてくるりと舞った。
 長い袂と髪が綺麗な円を描く。
 白い世界に、色を付けるように。


 綺麗なのは、貴女の方ですよ。


 そんな科白は、いくら俺でも口に出すのは憚られる。



「雪の白に、青い着物が映えて、綺麗ですね」
「…?」
「薬売りさんのことですよ?」


 さっきの俺の独白は、一体なんだったのか。


「もちろん、雪も綺麗ですけど」


 悪戯に、俺を弄んでいるかのようだ。
 無邪気に微笑む貴女は、またくるりと舞った。




 その姿が余りにも綺麗で
 余りにも愛おしくて



 静かに声に出した。










“綺麗なのは、貴女の方ですよ”






















〜雪を回らす(めぐらす)〜
















-END-








更に。

2010/3/13