抜けるような快晴の空。
風はなく穏やかで、けれど空気は冴えている。
正に、日本晴れ。
ここ数日、空が低い日が続いていた。
暴風が吹き荒れ、とても冷え込んだ。
街の人々も必要以上に外へ出ようとはせず、人が生み出す音よりも、風が立てる音の方が賑やかに聞こえていた。
そんな悪天候をようやく抜け出した数日ぶりの晴れの日。
薬売りとは、揃って縁側に腰掛けていた。
「漸く晴れましたね」
うっとりと陽の光を浴びているがそう呟いた。
「えぇ」
寒かろうが暑かろうが、様子の変わることのない薬売りが頷いた。
「久しぶりにお日様を見ました」
「えぇ」
「まだやっぱり寒いですけど、陽の光があるだけで、こんなにあったかく感じるんですね」
「えぇ」
何処か気怠そうな口調になり始めたにも、薬売りの返事は変わらない。
「寒さのせいで、全身がガチガチです」
「おや、あんなに温めてあげたのに」
「…っ、変な言い方しないでくれませんか…」
「間違っちゃあ、いないでしょう」
くすくすと笑われ、はバツの悪そうな顔をする。
「…どんなに俺が貴女を温めても、この陽の光には、敵わないようで」
その光の温かさだけで、人の心も身体も解きほぐしてしまう。
「頑張って、いるんですけどねぇ」
ぼやく様な薬売りに、今度はがクスッと笑った。
「そんなに頑張って私を温めてくれてたんですか?」
「そりゃあ、もう」
肩を竦めながら薬売りはおどけて見せる。
「貴女という人は、すぐに冷えてしまうんですから」
「こればっかりは仕方ないです…」
「まぁ、そうでないと、俺も困りますけど、ね」
え? とわざとらしく問いかけるに、薬売りが答えることはなかった。
「それにしても、このまま春に向かってくれるといいんですけど…」
「何を言っているんで。これからが、冬本番じゃあ、ないですか」
「…うぅ」
「まだ暫く、俺の出番、てぇことですね」
薬売りの言葉に、一瞬項垂れ掛けたがパッと薬売りを見上げた。
それに気づいて、薬売りもに視線を向ける。
その肩口に、は寄りかかった。
「じゃあ少しだけ、ここ、貸してください」
そう言うと、目を閉じて身体の力を抜いた。
「少しと言わず」
「いえ、少しです…」
そうして二人の会話は途絶えた。
燦々と降り注ぐ柔らかい日差し。
その光の温かさと、隣に感じる人の温かさ。
その二つが、二人を満たしていた。
冬の快晴三部作・壱
END
2015/1/11