天気雨の夜

轆轤首〜幕引き〜















 一人の人を想い続ける。


 待ち続ける。


 死して尚…。














 遠くで、緩やかな笛の音がしている。
 その後ろで、鼓を打つ音も。

 今頃、神社の境内では、村の娘が巫女に扮し舞を奉納している頃だろう。


 は、階段下に供えてある花を見つめる。
 そして手を合わせる。

 紗和や由次の一途過ぎる想いに触れて、思う事がある。




 死して尚、その人を強く想う。

 会いたいと願う。

 モノノ怪を生むほどに。

 それは、どれほどの愛しさなのだろうか。





 何度止められても、その人を求める。

 会いたいと願う。

 後を追って、命を投げ出せるほどに。

 それは、どれほどの愛しさなのだろうか。






 自分はそこまで人を、好きになれるのだろうか。






 薬売りを、想っているのだろうか。

 命を捨てる覚悟で。

 モノノ怪になってしまうくらい強い想いで。




「そんなの、分からない…」




 手を解いて、立ち上がる。




 薬売りのことが好きだと自覚したのは、つい最近の事で。
 けれど同時に、その気持ちは隠そうと思った。
 旅を続けたいから。
 傍に、いたいから…。


 コンッ。


 音のした方を見れば、階段の途中に薬売りが立っていた。
 高下駄が石を打つ音が何度かして、薬売りがの傍に下りてくる。


 何も言わなくても、傍に来てくれる。

 それは、どういうことなのだろうか。





「薬は売れましたか?」

「完売、ですよ」

「何よりです」



 階段に沿って吊るされている提灯が、風で揺れる。
 そのせいで、二人をほんのりと照らす光も揺れる。

 仄暗い。



「明日、お神輿が奉納されるそうですよ」
「そう、ですね」
「見て行きませんか?」

 薬売りは口角を上げる。

「そう言うと、思って、いましたよ」

 その言葉が、嬉しい。




 薬売りは、行きますよ、と言って向きを変える。

 は暫く、その後姿を見つめていた。

 付いて来ない事に気付いたのか、薬売りは立ち止まってちらりと振り返る。



 何も言わなくても待っていてくれる。

 それは、どういうことなのだろうか。



 横目でこちらを見ている薬売り。

 は足早に追いつく。




 そうして、二人並んで歩き始める。























-END-












この後の幕間「幻」を先に書いたせいか
上手く纏らなかった轆轤首。


次の幕間が本当に最後です。


2010/10/10