「こんっなに晴れてるのに…」
商売の宛てを探そうと大通りを目指していた薬売りの後ろで、弱弱しい声がした。
「どうしてこんなに寒いんですか…!」
薬売りが振り返ると同時に、身体をこれでもかというくらい小さくしているが呻いた。
「…底冷え、というやつですよ」
「冷静に答えないでください…っ」
少しばかり呆れた雰囲気を醸し出した薬売りに、がすかさず応えた。
本日は晴天なり。
けれど、日差しは弱く、空気は冷えきっている。
「だから宿で待っていていいと、言ったじゃあないですか」
「そんな訳にはいきません」
ムッとしたは足早に薬売りに追いついてきた。
この町に来て三日ばかり、初日こそ奉公先を得たものの、それ以降働く宛ては見つからなかった。
それならばと、は薬売りに付いて商売の手伝いを申し出たのだ。
けれど薬売りは、外は寒いからと断っていた。
「薬売りさんが寒い中でお仕事をしてるのに、一人だけ温かいところでぬくぬく過ごすわけには行かないんです」
「何もそこまで…」
まるでぬくぬくすることが悪だとでも言うようなに、薬売りはクツクツと笑った。
「笑わないでください」
「…まぁ、何と言うか、働き者の貴女らしい」
それでも尚、薬売りは肩を震わせている。
「でも、こんなに冷え込むなんて…」
は両掌を擦り合わせて、そこに息を吐きかける。
「さん」
薬売りに呼ばれ、はそちらを向く。
手が、差し伸べられている。
「えっ…と」
戸惑いと恥ずかしさが入り混じった顔。
薬売りはそんなの手を取る。
その手をそのまま自分の袂の中へと引き入れた。
「…」
その光景を見たまま固まった。
「あの…」
「少しは、温かいでしょう」
「えっと…」
「本当は、両手ともこうしたいんですけど、流石に、身動きが取れませんから、ね」
「それは…問題じゃないと言うか、何て言うか」
恥ずかしいんですけど、と呟くに、薬売りは聞く耳を持たなかった。
そのまま通りへ出ると、商売の宛てを探すべく歩き始めた。
は手を繋いで、尚且つその手を人の袂へ入れていることを他人に気取られないよう、なるべく薬売りの傍を歩いた。
それはそれで、二人の距離があまりに近すぎて、違和感があるのだが…。
薬売りはそれも分かっていて、一人静かに口角を上げた。
「さん」
「はい?」
焦り気味の返事にも、内心で笑ってしまう。
「帰ったら、もっと、温めてあげますから、ね」
「!?」
薬売りは、何も返せないでいるに優しく笑んだ。
そうして、袂の中で繋いでいる手に力を込めた。
冬の快晴三部作・参
END
2015/1/11
以上、冬の快晴三部作と称したリハビリでした。
本年もどうぞ、よろしくお願いいたします。