天気雨の夜

〜幕引き〜





 朽ち果てた家を出ると、遠くの空が白んでいた。

 それほど長い時間をあの中で過ごしていたのだ。



 何度も眠りに落ちたけれど、どれほどの時間眠っていたのかは分からない。
 はだるい身体を紛らわすように伸びをした。


「いたたた…」


 体中が軋んで、酷い痛みだった。
 あれだけ飛んだのだから仕方ない。
 けれど、心の痛みよりはマシだ。
 は苦笑した。




 何も言わないから不安になる。




 そう言ったのは自分だったけれど、自分自身がそうだった。


 何も言ってくれない薬売りと、やはり何も言えない自分。

 自分が何も言わなくても、薬売りが不安に思うことなどないだろう。
 けれど、は、薬売りに何か言って欲しい。


 包み隠さず。


 女遊びをしているなら、それはそれでいいのだ。
 確かに哀しくて寂しくて、遣る瀬無い気持ちになるのは事実だけれど。

 さっきのように動揺して、モノノ怪退治に支障を来たすくらいなら、自分がそんな対象でないと、はっきりと言ってもらえた方がいっそスッキリするのではないか。
 傍にいるのは辛いかもしれないけれど、モノノ怪と向き合うとき、薬売りの一番近くに居たい。
 そんな風に思う。








 山間から差し込む日差しが、心を溶かした。

 明るくなっていく空が、心を軽くした。

 自分でも気付かないうちに、一粒の涙が零れた。










 後ろから、子供の声で呼ばれた。






 振り向いたは、笑顔だった。



「さっきから何なんですか? 見ず知らずの狐に呼び捨てにされたくないです」


「見ず知らず、か。まぁ仕方がない。話がある、一緒に来るんじゃ。お前もな」


 狐は薬売りを見て楽しそうに言った。


「…なるほど…」


 薬売りは歩き出した狐の後を、大人しく付いていく。
 薬売りが素直に従う事に首を傾げながら、もその後に続いた。




















-END-








中途半端ですが、これで野狐完結です。


2011/9/18