暗い雲が空を覆ったと思ったら、白いものが舞い落ちてきた。
道理で冷えるわけだ。
はぁ、と息を吐くと真っ白に染まる。
それが消えた後には、雪が降り注いでくる。
大粒の雪。
どうかこのまま、降り続いて…
「さん」
薬売りさんが、私を呼ぶ。
「急ぎましょう」
私に手を差し伸べてくる。
私はその手を取る。
「大分強くなってきましたね」
「そう、ですね」
宿の窓から、外を眺める。
降り始めた頃よりも、大降りになった。
もうすぐ、景色が白で埋め尽くされそう。
「積もればいいのに…」
薬売りさんに聞こえないように呟いた。
「さん、出来ましたよ」
低く、優しい声が呼ぶ。
私は振り向いて笑う。
障子を閉めて、薬売りさんの元に行く。
火鉢のせいなのか、薬売りさんがいるからなのか、温かくなる。
「いい匂い」
「しょうが湯、ですよ。熱いから、気をつけてください」
「ありがとうございます」
ゆっくりと湯呑みに口を寄せる。
生姜が鼻につんときて、その後口の中に甘さが広がる。
じんわりと、身体が温まる。
「何故、積もったほうがいいんで…?」
「え…?」
聞こえていたの?
聞こえないように、小さく言ったはずなのに。
違う、かな。
声に出していた時点で、聞いて欲しかったんだ。
薬売りさんに、聞いてもらいたい。
でも…
「雪遊びができるじゃないですか」
本当のことは、言わない。
「雪達磨に、雪合戦、鎌倉も作って…」
「貴女らしい」
薬売りさんは、目を細めて楽しそう。
でも、本当はそんな理由じゃない。
違うんです。
雪が積もれば…
出かけられないでしょう?
雪かきして道が出来るまで。
それとも雪が溶けるまで。
貴方はそれまでここにいる。
私の傍に、いてくれる。
だからどうか、降り続いて…
-END-
今年は雪が多かったので
何となく雪関連のものを書き溜めてみました。
2010/3/13