〜花火・弐〜







「…っ、あの…」



 突然薬売りに抱きしめられたは、戸惑うしかなかった。
 今までの雰囲気の何処に、こんな事が起こる要素があったのか。

「薬売りさん?」

 もうすぐ花火が始まるというのに。
 けれど、優しく包まれるともうどうしようもない。
 抗えない。

…」

 呼ぶと同時に薬売りは、きゅう、と強く抱きしめる。

「どうかしたんですか?」
「いえ」
「でも」
「こうしていたいんですよ」

 は顔を上げて薬売りの様子を覗った。
 すぐに視線がぶつかる。


「…っ」


 は息を呑んだ。
 暗がりで、それでもはっきりと見えた。



 が見たのは、薬売りの満ち足りた顔だった。



 今まで、これほど穏やかな薬売りを見たことがあっただろうか。


 慈しむような視線が自分に注がれて、こちらも穏やかな気持ちになる。
 それなのに、何かがこみ上げてきて、胸が苦しい。
 それが涙腺まで伝播して、目頭が熱くなっていく。


 そんなの変化に気付いたのか、薬売りが微笑んだ。
 の瞳に溢れてくる涙。
 薬売りはその目蓋に優しく口付けた。

 目を伏せると、涙は頬を伝った。

 顔を離して、今度は指で拭う。
 薬売りの指が触れ、の頬が染まっていく。



 もう一度視線を合わせると、互いの瞳に吸い込まれるかのように、近付いた。


















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前回の訂正
正しくは、「三周年記念短編強化月間」です。

頑張ります!

2012/8/12