唇が重なった瞬間、空が明るくなった。
ドン、と大きな音が響いて。
遠くから、歓声が沸きあがる。
それが何度か繰り返される。
「始まって、しまいましたね」
「…はい」
触れるか触れないかの距離で、二人は見つめあう。
どちらも、微笑んでいる。
「折角の花火と、折角の穴場だ。…ちゃんと見ようじゃないですか」
「はい…!」
二人は花火の上がる方に向き直って、空を見上げた。
そうして空を彩る大きな花を、飽きることなく眺め続けた。
不意に繋いだまま手を引かれて、は薬売りの方を見た。
薬売りはまたも穏やかに微笑んでいて、はまたも頬を染めた。
ぱっと空が明るくなる。
薬売りの右側に、花火の色が映る。
ということは、自分は左側かと思う。
「…、 ―ドォン!― 」
一際大きな音がして、薬売りの声がかき消された。
「え?」
は首を傾げるしかない。
「すみません。今、何て…」
「いえ。何でも、ありませんよ」
薬売りは、それでも満足したように笑む。
そうして、花火の方を向いてしまった。
「そんな…気になります」
「大したことじゃあ、ありませんよ」
「でも」
「単なる俺の、自己満足、ですよ」
「…もぅ…」
口を尖らせただったけれど、視線を花火に戻すと、自然と元の表情に戻っていた。
薬売りは、そんなの横顔を盗み見る。
そうして、心の中で呟いた。
―ありがとう。
俺に、沢山のものを教え、与えてくれて―
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忘れてしまって本当にすみませんでした…
2012/12/30