目覚めた頃には、既に朝餉の膳が格子の外に並んでいた。
女たちはそれを座敷に運び、食べ始めた。
その部屋も小さな窓しかなく、朝だというのに薄暗かった。
「さん、心配しないで食べて。ちゃんとしたものだから」
「…は、はい」
未だ朝餉に手をつけていなかったに、利津は声を掛けた。
「ちっとも美味しくないけど、食べられるだけマシだわ」
そう言いながら利津の隣で箸を進める小柄な娘は多恵。
「どうせなら食材を置いていってくれた方がいいんですけど…」
残念そうにするのは、既に嫁いでいるという美佐。
「そういう問題? ここから出られればいい話よ」
明らかにやつれて見えるのは、ここへ来て一月になるという香乃。
苛立ったようにパクパクと朝餉を口に運ぶ。
「でも、アンタはもうすぐ出られるんじゃない?」
利津が香乃に視線を投げかける。
「…どうだか」
香乃は気にも留めず食事を続ける。
「そうですね、さんも来たし」
美佐が一人納得したように頷く。
「私が来たから、香乃さんが出られるんですか?」
にはその会話の意味が分からなかった。
「そう。一人入ると、近いうちに一人此処から連れ出されるのよ」
「でも、連れ出された先が何処なのか分からないから、それも恐いわ」
利津の説明に続いて、多恵が不安そうに言った。
「アタシは此処から出られるならそれでいいわ」
香乃はふん、と怒ったように口を尖らせた。
確かに、此処に居るのは辛いかもしれない。
朝餉を終えて、は一人板張りの部屋へと来ていた。
他の娘達は座敷で、それぞれ縫い物をしたり、読み物をしたり過ごしている。
道具や本は、たまに老婆が持ってくるのだという。
いくつかのことを代わる代わるやっているけれど、さすがに飽きてくるらしい。
娘達はたまに溜め息をついては、悲しげな表情を見せた。
は、何をする気にもなれなかった。
「どうすればいいの?」
昨夜月が見えていた小さな窓からは、申し訳程度に日の光が射している。
薬売りは、自分が攫われた事に気付いているだろうか。
仕事場に泊まっただけだと思っているだろうか。
は深呼吸を繰り返して、自分を落ち着かせた。
確かに昨日、何かが聞こえていた。
それと関わりがあるのかもしれない。
“何か”を突き止めれば、どうにか出来るかもしれない。
ゆっくりと目蓋を閉じて、心を開いた。
“…”
聞こえる。
“…”
声。
男の声だ。
けれど、何を言っているのかは分からない。
分からないけれど、確かに声がする。
更に意識を集中させる。
「…泣いてる…?」
何かを言っているのではない、泣いているのだ。
泣き声なのだ。
「そういえば」
昨夜、同じような泣き声を聞いたような気がした。
「さん?」
不意に声を掛けられ、はハッと集中を解く。
見れば利津が心配そうな顔をしていた。
「大丈夫?」
「はい…」
「ご家族が心配してるわね」
「…いえ」
は曖昧な笑みを見せる。
「利津さんこそ。此処にはどれくらい?」
「もう二十日くらいかしらね」
「それじゃあ、ご家族もさぞ…」
「そうね。でも、ちょっとあって、啖呵切って家出てきちゃったもんだから、行方知れずだなんて思ってないかも」
よりも更に曖昧な笑みを見せて、利津は部屋を出て行った。
「…利津さん?」
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何の進展もなし…です。汗
2014/4/20