布団へと戻って横になっていたのもとに、光が帰ってきた。
薄く目を開いてその光に向かって小さく笑う。
光はそのままの身体へと入っていき、辺りは元の色に戻った。
瞬間、狐の声が耳に響いた。
“もうすぐ、奴が来るぞ”
「…え?」
思わず声に出していたが、繻雫は何も答えず、そのまま気配を消してしまった。
は起き上がると、辺りを見渡した。
奴、というのが一体何なのか見当もつかない。
はまたも布団を抜け出すと、恐る恐る部屋を出た。
青い闇が変わらずにそこにある。
心細く思いながらも、は土間へと向かう。
「…?」
不意に、何かの気配がした。
軽い衝撃のような、何かが壊れたような。
間を置かず、もう一度同じような気配がする。
「…一体何?」
土間へと降りて、鉄格子で塞がれた勝手口へ向かおうとした時。
外から、こちらに近づいてくる足音がした。
「!?」
は息を飲み、それを吐き出さないよう両手で口を覆った。
不安のあまり、足ががくがくと震える。
すぐ外で、何かが壊れる音がした。
勝手口を開け、格子の向こうに姿を現したのは―
「くすり…うり、さん…??」
驚きのあまり、上手く声が出せなかった。
格子の向こうに現れたのは、紛れもない薬売りだった。
退魔の剣を片手に、身構えるように低い姿勢をとっている。
けれど、の姿を確認すると、肩の力を抜いたようだった。
「薬売りさんっ」
は弾かれた様に駆け出すと、両手で格子を握りしめた。
「さん」
の手を覆うように、薬売りの手が重なる。
「心配、しましたよ」
「…ごめんなさい」
薬売りはもう一方の手を格子の間から差し出すと、の頬に触れた。
の頬も、薬売りの手も、とても冷えている。
それでも目に涙を滲ませて、は微笑んでいた。
薬売りも安堵したのか、僅かに口角を上げた。
「少し、離れてください。封を解きます」
そう言うと、薬売りは札を取り出して格子に宛がう。
「破ッ―!!」
ガシャンッ!
薬売りが気合を込めると、錠は派手な音を立てて壊れた。
さっきが感じた気配と同じ衝撃だった。
全ての出入口に、錠と共に力が込められていたのだ。
格子戸を開けて、薬売りがゆっくりと中に入ってくる。
互いに視線を合わせたまま距離が近づく。
そっと、薬売りはを抱きしめた。
薬売りの両腕はを包み込み、の両手も薬売りの背に回る。
「まったく、貴女ってぇ人は…何をしているんだか」
「本当に。自分でも思います」
「それでも…」
「…? 薬売りさん?」
言いかけた薬売りに、は薬売りの腕の中で微かに首を傾げた。
「それでも、無事でよかった」
心の底から絞り出されたような薬売りの安堵の声。
は目を閉じて、その抱擁に身を委ねた。
NEXT
やっと会えました。
前回長かった分、今回短めで…
2014/6/1