「変に思われたかな?」
薬売りが出て行った後、ちゃんはそう僕に聞いてきた。
僕は右に傾いて、人間で言う首を傾げたようにする。
「思われたよね…」
小さく微笑むちゃん。
僕から視線を外して、一人考え込んでしまった。
これじゃあダメだと思って、僕はちゃんの正面に進み出ると、ぴょん、と跳ねた。
「?」
僕は飛び跳ねながらちゃんの周りを回っていく。
元気を出して。
「励ましてくれてるの?」
一所で跳ねて肯定する。
「ありがと」
ちゃんは人差し指で僕のてっぺんをつついてくれた。
僕でいいなら、話を聞くから…。
「私ね…」
「気付いちゃったの。薬売りさんの傍に居ても、役に立たないんだって」
動きが、止まる。
「だって、私が一緒に旅をする前だって、薬売りさんは天秤さんとお札と、それから退魔の剣でモノノ怪を斬ってたんだよ? 今更私なんて…」
ちゃんの膝に飛び上がって、跳ねる。
そんなことない。
「それに、私の力、いつかなくなっちゃうのかなって。力がなくなったら、ただの足手まといだし」
そういう風には思わないから。
「そういうこと考えると、凄く恐い」
そんなこと、考えないで。
ちゃんは寂しそうに、僕の肩を人差し指でなぞっていく。
「薬売りさんと旅が出来なくなるんじゃないかって」
僕は、そんなことないって、飛び跳ねることしか出来ない。
言葉を持たない僕らは、それでしか表現できない。
小さな体の僕らは、抱きしめてあげることも出来ない。
だから、必死に膝の上で跳ねる。
「天秤さん…」
そんな泣きそうな顔、しないで。
「聞いてくれる?」
もちろんだよ。
「足手まといで、居ないほうがいいって思っても、でも私、薬売りさんと行ける所まで行きたい」
ちゃん…
「薬売りさんはね、私の力を信じてくれて、認めてくれて、必要としてくれた初めての人なの」
「大切な人、なんだ」
「だから、要らないって言われるまでは、傍にいたい…かな」
薬売りさんには内緒だよって言うちゃんが、とても可愛かった。
「あぁ、そっか。気付いちゃった」
独り言のように呟いて、ちゃんは僕に笑顔を見せた。
「そういうことだったんだ」
そういうこと?
僕にはいまいち分からないよ。
一人で納得されても、困るんだけど…。
「だから、なんだ…」
そう言って目を伏せたちゃんは、さっきの“可愛い”とは違う雰囲気だった。
多分これが、“綺麗”ってやつかな?
僕はそのちゃんを、薬売りに見られなくて良かったと思った。
「決めた」
漸く目を明けたちゃんは、明るい顔をしてた。
「役に立つかどうかとか、足手まといかどうかとか、関係ない」
「薬売りさんがモノノ怪を斬るなら、私はそのモノノ怪の想いを引き受ける」
ちゃん…
「私の力がなくなるまで。付いてくるなと言われるまで」
僕がそんなこと言わせないよ。
そんなこと言い出したら、僕らがどれだけちゃんのこと好きか、薬売りに言い聞かせてやるから。全員で仕事放棄してやるから!
「ありがとう、天秤さん」
え?
「聞いてくれて。こんな話、薬売りさん本人になんて、言えないもの」
あ、いや。
照れると同時に…。
「私も、天秤さんと一緒に、薬売りさんの傍に居る」
-NEXT-
続きます。
2010/5/30