幕間第十七巻
〜天秤・弐〜










「変に思われたかな?」


 薬売りが出て行った後、ちゃんはそう僕に聞いてきた。
 僕は右に傾いて、人間で言う首を傾げたようにする。
「思われたよね…」
 小さく微笑むちゃん。
 僕から視線を外して、一人考え込んでしまった。
 これじゃあダメだと思って、僕はちゃんの正面に進み出ると、ぴょん、と跳ねた。


「?」


 僕は飛び跳ねながらちゃんの周りを回っていく。
 元気を出して。
「励ましてくれてるの?」
 一所で跳ねて肯定する。
「ありがと」
 ちゃんは人差し指で僕のてっぺんをつついてくれた。
 僕でいいなら、話を聞くから…。


「私ね…」


「気付いちゃったの。薬売りさんの傍に居ても、役に立たないんだって」
 動きが、止まる。
「だって、私が一緒に旅をする前だって、薬売りさんは天秤さんとお札と、それから退魔の剣でモノノ怪を斬ってたんだよ? 今更私なんて…」
 ちゃんの膝に飛び上がって、跳ねる。
 そんなことない。
「それに、私の力、いつかなくなっちゃうのかなって。力がなくなったら、ただの足手まといだし」
 そういう風には思わないから。


「そういうこと考えると、凄く恐い」


 そんなこと、考えないで。
 ちゃんは寂しそうに、僕の肩を人差し指でなぞっていく。


「薬売りさんと旅が出来なくなるんじゃないかって」


 僕は、そんなことないって、飛び跳ねることしか出来ない。
 言葉を持たない僕らは、それでしか表現できない。
 小さな体の僕らは、抱きしめてあげることも出来ない。
 だから、必死に膝の上で跳ねる。


「天秤さん…」


 そんな泣きそうな顔、しないで。


「聞いてくれる?」


 もちろんだよ。


「足手まといで、居ないほうがいいって思っても、でも私、薬売りさんと行ける所まで行きたい」


 ちゃん…


「薬売りさんはね、私の力を信じてくれて、認めてくれて、必要としてくれた初めての人なの」









「大切な人、なんだ」








「だから、要らないって言われるまでは、傍にいたい…かな」


 薬売りさんには内緒だよって言うちゃんが、とても可愛かった。








「あぁ、そっか。気付いちゃった」


 独り言のように呟いて、ちゃんは僕に笑顔を見せた。


「そういうことだったんだ」


 そういうこと?
 僕にはいまいち分からないよ。
 一人で納得されても、困るんだけど…。
「だから、なんだ…」
 そう言って目を伏せたちゃんは、さっきの“可愛い”とは違う雰囲気だった。


 多分これが、“綺麗”ってやつかな?


 僕はそのちゃんを、薬売りに見られなくて良かったと思った。







「決めた」






 漸く目を明けたちゃんは、明るい顔をしてた。


「役に立つかどうかとか、足手まといかどうかとか、関係ない」


「薬売りさんがモノノ怪を斬るなら、私はそのモノノ怪の想いを引き受ける」


 ちゃん…


「私の力がなくなるまで。付いてくるなと言われるまで」


 僕がそんなこと言わせないよ。
 そんなこと言い出したら、僕らがどれだけちゃんのこと好きか、薬売りに言い聞かせてやるから。全員で仕事放棄してやるから!




「ありがとう、天秤さん」
 え?
「聞いてくれて。こんな話、薬売りさん本人になんて、言えないもの」
 あ、いや。
 照れると同時に…。
「私も、天秤さんと一緒に、薬売りさんの傍に居る」




















-NEXT-








続きます。

2010/5/30