いつものようにぼんやり、川を眺めていた。
川辺の短い草の上に腰を下ろして。
夕日に染まって真っ赤になった水の流れが、嫌なことを思い出させる。
死ぬ間際に見た、自分の血の色だ。
アタシは男に刺されて、死んだ。
死んだと思って、真っ暗になって、真っ白になって、気が付いたらこの川辺に立っていた。
それからずっと、ここにいる。
別にこの世に思い残すことがあった訳じゃない。
死ぬんだと思ったら、妙にすんなり受け入れられた。
でも、アタシは今、ここにいる。
そしてまた、いつものように、ここにいる理由を探している。
夕暮れと同時に意識が覚醒して、日が昇ると意識が遠のいていく。
アタシの意識は、お天道様に左右されるのだと、暫く経ってから気付いた。
まぁ、一日中ここでぼんやりしてるよりはマシだと思うけど。
そんな事を考えていたら、何だか視線を感じて、土手の方に目を向けてみた。
見れば、娘さんが立っていた。
無駄に可愛げのある顔で、華奢。
漆黒の長い髪は、夕日を浴びてキラキラしている。
不思議そうな顔をして、アタシを見ているみたいだ。
すぐに目が合った。
その娘さんはゆっくりと土手を下りてきて、アタシに近付いてきた。
十歩分くらい間を空けて立ち止まって、それから躊躇いがちに距離を詰めてくる。
口元をほんの僅かに緩ませて微笑んだ。
それだけで、綺麗な人だと思った。
そうしてアタシの隣に、静かに腰を下ろした。
「貴女、アタシのこと見えるの?」
「はい」
「声も聞こえるの?」
「一応」
「アタシが何か分かってるの?」
「分かってるつもりです…」
「アタシ、生きてないんだけど」
「知ってます。私には、見えるし、聞こえます」
そんな人に会ったのは初めてだったから、正直驚いた。
それって幽霊が見えるってことだ。
本当に見える人がいるなんて、思わなかった。
生きていた時だったら、幽霊が見えるなんて絶対に信じなかった。
そんなの、誰も見えないことをいいことに、人を騙してるんだと。
でも、今現在アタシは死んでいて、明らかに幽霊で、この人はアタシを見ている。
だから、この人は、本当に見えるんだ。
そして、話せるんだ。
「あの、貴女はどうしてここに?」
「え?」
「ここで何をしてるんですか?」
「…分からないわ。気が付いたらここにいたから」
「よければ、聞かせてもらってもいいですか?」
「何を?」
「あの…、貴女が亡くなったときの事」
何て不躾な質問だろう。
誰が好き好んで自分が死んだときの話をするのよ。
いや、死人にくちなし、話す機会なんて絶対に無い。
もし話したくても、聞いてくれる人なんていない。
幽霊同士で語り合うなんて事も、聞いたことが無いし、今まで遭遇したことも無い。
でも考えてみたら…
これって、ちょっと面白い?
「いいわ。…アタシは、結構大きな呉服屋の娘だったの」
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2011/6/19