とある町外れの森の中。
小さな祠のある開けた場所。
薬売りの姿はそこにあった。
行李を下ろすと、大きな石に腰を掛け一息つく。
その日の商売を大方終らせて、町に戻る途中だった。
傾きかけた日が、鮮やかに辺りを照らしている。
それを見つめながら考えた。
が、自分自身の身を守る方法。
彼女は、声にばかり集中して、ある意味とても無防備だ。
声に気を取られていて、モノノ怪に対して何の抵抗力もない。
声だけでなく、モノノ怪自体に集中すれば、モノノ怪もに手を出す事は容易ではなくなるはず。
そうは言っても、実践ですぐに出来るとは思えない。
何か、訓練が出来ないものか。
はぁ、と珍しい溜め息をつく。
「で、アンタはそこで、何を」
姿勢を崩さず、薬売りは突然に声を上げた。
“うぉっ!? お前、俺が分かるのか!?”
薬売りのすぐ隣に、男が立っていた。
派手な雌黄の着物を着た町人体の若い男。
「これだけ、近くで見られてちゃあ」
“いや、すまねぇ! 悪気はねぇんだ”
頭を掻きながら謝る男を、薬売りは胡乱げな目で見てやった。
“まさか俺の事見える奴がいるなんてな。驚いたぜ”
「アンタ、自分が何者か解っているんで」
“もちろん! 俺は死人だ! 幽霊だ!!”
自慢する事じゃない、と薬売りは密に思った。
けれど、自分が死んでいると解かっているなら、性質の悪い輩ではないらしい。
“なぁ、俺は荘太ってんだ。お前は?”
「ただの、薬売り、ですよ」
“そうは見えねぇな。ま、いいけどな”
死んでいるのに明るく話す男に、薬売りは若干の違和感を覚えた。
「アンタ、此処で何を、しているんで」
“分からねぇ。死んだと思ったら、此処にいた”
「此処に、何かあるんで」
“いや、覚えてねぇんだ。あんま思い出せなくてな”
「この世に留まるには、それなりの理由ってもんが、あるはずですぜ」
“そうだな…”
荘太は考え込んだ。
“ここに来てから色々考えて、思い出したことがある。死ぬ間際に、あいつ…紗菜の顔が浮かんできたんだ”
「紗菜、さん」
“幼馴染だ。喧嘩別れした。多分、それだ”
静かな声で、荘太は言った。
“紗菜が今、どうしてるか知りてぇかな…”
薬売りは、暫くの間沈黙した。
どんどん太陽が傾いていく。
「アンタ、このままでいたら、どうなるか、分かっているんで」
その問いに、荘太も沈黙する。
“何となく、ヤバイのは解ってる。感覚的に”
それまで、並んで話していたが、突然荘太が薬売りに向き直った。
“頼まれてくれねぇか”
「…」
“紗菜が今どうしてるのか知りてぇ”
「…」
“会いたいなんて言わねぇから。せめて、息災かどうかだけでも!”
再び、薬売りは沈黙する。
“ここで会ったのも、何かの縁だろ”
「では、交換条件ってぇことで」
“交換条件??”
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とても長い幕間の始まりです。
だらだら続きますが、あしからず。
2012/5/20