ゆっくりと目を開けた。
視界の隅で、ゆらゆらと行灯が陰を作っていた。
ぼんやりとそれを眺めながらも、は冷静だった。
今の夢が何なのか、考えずともわかっていた。
「漸く、お目覚め、ですか」
声を駆けられて、我に返った。
「薬売りさん! 帰ってたんですか!?」
慌てて起き上がると、薬売りの方を向く。
文台に向かって、いつものように帳簿をつけている。
「すっかり、寝入っていたよう、ですね」
「そうみたいです」
へへ、と照れ笑いをして、けれどすぐに黙り込む。
「さん」
「はい?」
「この世ならざるものと、少々修練をしてみませんか」
「…はい?」
「今日、ここへ戻る途中、男と出会いましてね」
「はぁ」
「その男が、対モノノ怪の為の修練を、手伝ってくれると」
「対モノノ怪って、あの…。この前私が言った…?」
自分の身は自分で守りたいということ。
頷いて薬売りは一通りの事情を話した。
がモノノ怪自体に集中出来るようにするには、いくらか練習が必要だと薬売りは思った。
その相手をしてくれるよう、その男に頼んだのだ。
「頼んだわけでは、ありませんよ」
「?」
「交換条件です」
少々厄介ですが、と肩を竦める。
「人探し、ですよ」
「え…それってとても大変じゃないですか?」
「まぁ」
帳簿を閉じると共に、薬売りは目を閉じた。
少ない手がかりで、見つかるかどうか。
薬売りにも分からなかった。
どれだけの期間この町に居続けるのか。
少々難儀な事だ。
「随分色々決めてきちゃったんですね」
文台越しに向かい合って、薬売りを冗談交じりの視線で睨む。
「すみませんね」
の視線を受け止めて、薬売りは悪びれもせず言った。
「でも」
の表情が柔らかくなる。
「私のこと、考えてくれてるんですね」
照れたように笑う。
「そりゃあ、もちろん」
薬売りの口角も自然と上がった。
「じゃあ、探してあげないと」
何故だかこのままではいけない気がして、は話を切り替えた。
薬売りは、それに気が付きながら、敢えて何も言わなかった。
「一体誰を探してるんですか?」
「紗菜、という娘さんだそうで」
「娘さん」
娘など、いくらでもいる。
けれど、名前が分かっていることが救いか。
「今は、隣町に住んでいるとか」
「隣町ですか」
少なくとも、隣町に行けば何とかなりそうだ。
「他に手がかりは? 外見とか特徴とか」
「それが、随分前に別れたきりだそうで」
「どのくらい前ですか?」
「六年、だとか。幼馴染で、喧嘩別れしたと」
それだけ経ってしまえば、人も随分変わってしまうだろう。
子供も、大人になってしまう。
「どうして、探しているんですか? その男の人は」
「死ぬ間際に、その紗菜さんってぇ人の顔が、浮かんできたらしいですよ」
喧嘩別れして、それきり。
娘は町を出て、それから会っていない。
その後、自分は悪い連中とつるんで、刺されて死んだ。
娘の顔を思い出して、気付いたら祠にいたらしい。
何処かで聞いた話だ。
は、はっと、目を見開いて薬売りを見た。
「薬売りさん!」
突然声を上げたに、薬売りは少々驚く。
「交換条件にならないかも」
「はぁ…」
一体何を言っているのかと、小首を傾げる。
「ごめんなさい。私、その娘さん知ってるかもしれません!」
NEXT
とりあえず薬売りさんとヒロインは、似たような事に巻き込まれると良い。
2012/6/3