幕間第五十三巻
〜ばか・参〜




 ゆっくりと目を開けた
 視界の隅で、ゆらゆらと行灯が陰を作っていた。

 ぼんやりとそれを眺めながらも、は冷静だった。
 今の夢が何なのか、考えずともわかっていた。


「漸く、お目覚め、ですか」


 声を駆けられて、我に返った。


「薬売りさん! 帰ってたんですか!?」

 慌てて起き上がると、薬売りの方を向く。
 文台に向かって、いつものように帳簿をつけている。

「すっかり、寝入っていたよう、ですね」
「そうみたいです」

 へへ、と照れ笑いをして、けれどすぐに黙り込む。

さん」
「はい?」
「この世ならざるものと、少々修練をしてみませんか」
「…はい?」
「今日、ここへ戻る途中、男と出会いましてね」
「はぁ」
「その男が、対モノノ怪の為の修練を、手伝ってくれると」
「対モノノ怪って、あの…。この前私が言った…?」

 自分の身は自分で守りたいということ。
 頷いて薬売りは一通りの事情を話した。

 がモノノ怪自体に集中出来るようにするには、いくらか練習が必要だと薬売りは思った。
 その相手をしてくれるよう、その男に頼んだのだ。

「頼んだわけでは、ありませんよ」
「?」
「交換条件です」

 少々厄介ですが、と肩を竦める。

「人探し、ですよ」
「え…それってとても大変じゃないですか?」
「まぁ」

 帳簿を閉じると共に、薬売りは目を閉じた。
 少ない手がかりで、見つかるかどうか。
 薬売りにも分からなかった。
 どれだけの期間この町に居続けるのか。
 少々難儀な事だ。

「随分色々決めてきちゃったんですね」

 文台越しに向かい合って、薬売りを冗談交じりの視線で睨む。

「すみませんね」

 の視線を受け止めて、薬売りは悪びれもせず言った。

「でも」

 の表情が柔らかくなる。

「私のこと、考えてくれてるんですね」

 照れたように笑う

「そりゃあ、もちろん」

 薬売りの口角も自然と上がった。




「じゃあ、探してあげないと」



 何故だかこのままではいけない気がして、は話を切り替えた。


 薬売りは、それに気が付きながら、敢えて何も言わなかった。





「一体誰を探してるんですか?」
「紗菜、という娘さんだそうで」
「娘さん」

 娘など、いくらでもいる。
 けれど、名前が分かっていることが救いか。

「今は、隣町に住んでいるとか」
「隣町ですか」

 少なくとも、隣町に行けば何とかなりそうだ。

「他に手がかりは? 外見とか特徴とか」
「それが、随分前に別れたきりだそうで」
「どのくらい前ですか?」
「六年、だとか。幼馴染で、喧嘩別れしたと」

 それだけ経ってしまえば、人も随分変わってしまうだろう。
 子供も、大人になってしまう。

「どうして、探しているんですか? その男の人は」
「死ぬ間際に、その紗菜さんってぇ人の顔が、浮かんできたらしいですよ」

 喧嘩別れして、それきり。
 娘は町を出て、それから会っていない。
 その後、自分は悪い連中とつるんで、刺されて死んだ。
 娘の顔を思い出して、気付いたら祠にいたらしい。



 何処かで聞いた話だ。



 は、はっと、目を見開いて薬売りを見た。



「薬売りさん!」


 突然声を上げたに、薬売りは少々驚く。


「交換条件にならないかも」


「はぁ…」


 一体何を言っているのかと、小首を傾げる。


「ごめんなさい。私、その娘さん知ってるかもしれません!」

















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とりあえず薬売りさんとヒロインは、似たような事に巻き込まれると良い。

2012/6/3