昨日よりも早い時刻。
まだ、日は傾き出したばかりだ。
荘太は、相変わらず祠の傍にいた。
というか、そこにしか居られない。
いつまでもこうしていてはいけないと、解かってはいる。
けれど、ギリギリまで此処にいたい。
会えるのなら、会いたい…。
会って…
「荘太さん」
低い、静かな声で呼ばれて、荘太はそちらを見た。
“おう、アンタか”
昨日自分を見つけた男だった。
その傍らには、随分と器量よしの娘が控えている。
「はじめまして」
ニコっと笑ったその娘も、自分の姿が見えるのだと、荘太は内心驚いていた。
“アンタも、俺が見えるのか”
「はい、といいます。…突然ですけど」
“何だよ”
「会いたい、ですよね?」
“は?”
「貴方から聞こえてきます。会いたいって」
と名乗った娘は、口には出していないはずの荘太の気持ちを言い当てた。
今度は、驚きを隠せずに呆けた顔をする荘太。
薬売りはそれを、目を細めて面白がった。
“いや、会わなくていい。息災だと分かりゃあそれで”
「でも、出来るなら会いたいでしょう?」
ムキになるに、荘太は後ずさる。
“いや、だからな…っ”
「息災だ、そうですよ」
“は?”
今度は薬売りから不意打ちされる。
「昨日、さんが偶然出会った娘さんが、どうやら、紗菜さんらしいと」
“何だよ、それ”
「西通り近くの、お地蔵様のある路地で、手を合わせていたんです」
“な…”
そこは、荘太が刺された場所だった。
「そこで幼馴染が死んだって…。名は聞きそびれましたけど、でも十二の時にお父さんを亡くして、隣町に行ったそうです。…それに…」
一度間を置く。
「その娘さんと話していたときに聞こえたのは、貴方の声でした。呼んでいたんですよね?」
違いますか、と問う。
“そうだろうな…きっと”
荘太が認めると、薬売りとは視線を合わせて安堵していた。
その光景が、何故か羨ましい。
「会いたいですよね?」
“…”
「聞こえてますから、認めてください」
“聞こえるって…”
「聞こえるんです。荘太さんの、心の叫び」
穏やかに微笑むを見て、何故だか素直に納得できた。
全てお見通しで、何でも見透かしてしまいそうな、真っ直ぐな瞳。
“あぁ、出来ることなら会いてぇ”
満足する答えが聞けたのか、は満面の笑みになる。
薬売りも、穏やかに目を細めて一緒に喜んでやる。
そんな二人が、どうにも眩しく見えた。
「では。…約束は、果たしてもらいますよ」
薬売りが、と荘太を交互に見遣った。
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2012/6/10