幕間第五十三巻
〜ばか・五〜




 はらはらと木の葉の舞う森の中。

 小さな祠のある開けた場所。

 その静かな空気にはそぐわない、睨み合う男女の姿。



 睨み合う、という表現は間違っているかもしれない。







 一人は
 眉間に皺を寄せて、向こうにいる男を睨んでいる。

 もう一人の派手な着物を着た男は荘太。
 挑発しているのか、を小馬鹿にしたような顔で見遣る。

 無言のまま、どちらも動かない。

 が体勢を変えようと、僅かに身体を動かした。
 その一瞬のうちに、荘太は立っていた場所から消えてしまった。
 ハッとして辺りを窺う
 けれど荘太は、そんなの右隣に姿を現して、の真似をするように何かを探すフリをしていた。

「い、いつの間に…」
「まぁ、一応幽霊ってやつだからな」

 狼狽えるを、荘太は得意げな顔をしてみせる。


さん」


 背後から声が掛かる。


「些細な動きでも、相手に隙を与えますよ」


 離れた場所から見ていた薬売りは、厳しい視線を投げかける。


「は、はい…。すみません」


「声ではなく、モノノ怪自体に集中する、という事が、分かりましたか」


「いえ…、まだ…」



 に出来そうなものは何か。
 薬売りが導き出したのは、モノノ怪に隙を与えない事。

 声ばかりに集中しているには、隙が多すぎると思ったのだ。
 その為にモノノ怪の意識の中に取り込まれ易いことは分かっている。
 結果的にそれが剣の解放を手伝っている事も。

 けれど、そればかりではの精神的な疲労も増えてしまう。
 モノノ怪の声だけではなく、モノノ怪の存在自体を意識する事で、隙を与えないように出来れば、モノノ怪も攻撃しにくくなるだろうと考えたのだ。



「どうしても、声に意識が、向いているようですね」
「ごめんなさい…」

 肩を落とすに、薬売りは歩み寄った。

「いえ、まだ、始めたばかりですから。いいんですよ」
「薬売りさん」

 薬売りは宥めるようにの頭を撫でる。



 見つめ合う二人の周りに花が咲いているのは、恐らく錯覚だろう。



“だぁぁぁぁぁっ!! ふざけるのも大概にしやがれ!!”





 そのほんわかとした空気を、怒声が切り裂いた。




“俺の存在を忘れてねぇか!???”




 荘太が吼えた。




「もともと、存在しないじゃあないですか」

 薬売りが横目でチラリと睨む。

“何ぃ!?”



「紗菜さんと会えなくてもいいんで」

“…っ。クソッ!”



 薬売りの言葉で、荘太は静かになった。
 そんな二人のやりとりを、はハラハラしながら聞いていた。












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これ、特訓になってんのかな…



2012/6/17