漸く俺の番が回ってきた。
これだけの数居ると、随分時間がかかるもんだぜ。
何の順番って、そりゃあ…を守る順番だ。
一人で寝るが心配だからって、薬売りが俺らの中から一つ、に貸したのが始まりで、二人が同じ部屋に泊まるようになってからは、薬売りの帰りが遅かったり、帰らなかったりしたときに、置いていくって感じになった。
天秤の中でどいつがと一緒に居るかってのは、くじで順番を決めたんだ。
アミダだ、アミダ。
でも、薬売りが居ない夜は滅多にないし、くじ運の悪さも相まって、俺の番が来るまで、随分時間がかかったって訳だ。
待った、本当に待った。
漸くを守れる!
え?
何で呼び捨てって?
そんなのいいだろ?
減るもんじゃない(つーか、誰にも聞こえないし)。
寧ろ、未だに“さん”付けで呼んでる薬売りが意味不明だろ。
もうすっかり良い仲なんだからよ。
あ、いや。
大事にしてるってのは分かるんだが。
それにしても、早く呼んでやれよ。
おっと、話が逸れた。
薬売りが引き出し開けたじゃねぇか。
皆が俺を突いてくる。
じゃあ、ちょっくらを守りに行ってくるぜ!
「今日は君なんだ、宜しくね」
薬売りの手からの手に飛び乗ると、が声を掛けてきた。
多分、俺らの見分けなんて付いてないと思う。
でも、こうやって話しかけてくれると、嬉しいし、何だか照れるな。
俺は“こちらこそ宜しく”の意味を込めて、前傾して見せた。
ふふ、とくすぐったくなるような笑顔で、は俺に笑いかけてくれた。
それから畳みの上に着地する。
「では、頼みましたよ」
おうよ!!
薬売りの方にクルッと向き直って、その意気込みを示した。
それから薬売りは、と二言、三言話してから部屋を出て行った。
少しだけ、の表情が曇ったのが分かった。
薬売りがいないことが、きっと寂しいんだな。
何だよ、俺がいるじゃねーか!
と、思った瞬間、がこっちを振り返った。
「薬売りさん、これから商談なんだって」
傍から見たら独り言になるけど、これは俺に話しかけてくれてるのか。
「お座敷で芸鼓さん呼んで商談なんて、一体どんな人が相手なんだか」
ねぇ、と哀しげな笑顔で俺に同意を求める。
薬売りのやつ、を一人置いていくなんて、許せねぇ。
…いや、薬売りが居ると、俺の出番が無かったのか。
「芸鼓さん呼ぶわけだから、女が付いて行くわけにも行かないし…」
よし。
女遊びなんかしたら許さねぇってことにしておいてやる。
「そうだ! 夕餉は豪勢に、美味しいもの頼んじゃおう」
ぽん、と掌を叩いて頷いた。
薬売りがいないからって、ずっと気落ちしてるわけじゃない。
すぐに切り替えて、自分の好きなようにするところが、強くていい。
凭れすぎない。
よく出来たいい女だよ。
「それで薬売りさんにご馳走になろう」
つまりご請求先は薬売り、か。
…ホントに、いい性格してるよ。
「こんなもんかな…?」
風呂から戻ってきたは、宿の者が敷いて行った布団を移動させていた。
自分の荷物を置いてある角のすぐ傍だ。
こんなに広い部屋なのに、こんな隅の方に布団持ってきやがって。
一人で広い部屋の、しかも真ん中に寝るのは、心細いわけか。
「一人だって分かってるんなら、こんな広い部屋にしなくてもよかったのに」
布団の上に座って、は一息ついた。
「長屋育ちの私には、このくらいで充分」
何だ。
広い所が恐いわけじゃねぇのか。
自分には畳み二畳分が合ってるってか。
まぁ、でも、きっと広い所じゃ、寂しいんだろうけど。
こういう独り言を、薬売りは聞いたことないんだろうな。
ちょっとした優越感ってやつ?
「おやすみ、天秤さん」
浸っていると、声を掛けられた。
は、俺の方を見てにっこり笑っている。
俺はピョンと飛び跳ねてそれに答える。
おやすみ、。
いい夢見ろよ!
やがて寝息を立て始めた。
強くて、いい性格をして、一人でも大丈夫で、そんな女なのに、寝顔はあどけなくて、可愛いもんだな。
よし、俺も警戒を怠らねぇぜ。
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2013/9/15