…む。
が寝付いてから暫くして、気配を感じた。
まだ距離はあるけど、こっちに向かってくる。
急いでるように感じるな。
くそ。
何で戻ってくるんだよ、薬売り!!
その気配は感じ慣れた薬売りのもので、気配が近付くと共に、やがて忍ばせた足音も近付いてきた。
静かに襖を滑らせると、音もなく部屋に入って、また静かに襖を閉じる。
それと同時に、ひんやりとした空気も流れ込んだ。
薬売り独特の香りの中に、酒の匂いが混じってる。
って、俺、鼻あったっけ?
まぁ、いっか。
とにかく、そんな感じがムンムンする。
早く帰りたい一心で、客にしこたま飲ませて泥酔させたんだな。
薬売りは行李も下ろさずに、部屋の隅で寝ているへと近付いた。
俺には目もくれない。
一度の顔を覗きこんで満足したのか、そこで漸く行李を下ろした。
そしての傍らに座り込む。
って、触んなよ!
起きるだろーが!
薬売りは徐に手を伸ばすと、の髪を撫でやがった。
その流れで頬にまで触ってる。
「ただ今、戻りましたよ、…」
いくら小声とはいえ、起きるっつってんだろ!
…って、え?
今、何てった?
おい、薬売り。
お前、まさか一人んときだけ“”呼びなのか?
…こんの…根性無しが!!
俺の叫びなんか聞こえている訳もなく、薬売りはまたの髪を弄んだ。
「またこんな隅の方に…。本当に、貴女ってぇ人は…」
一人何処か納得したように笑って、それで漸く満足したのか、俺のほうに目を向けた。
「ご苦労さま、でしたね。変わりは、ありませんでしたか」
俺は、前傾して頷いた。
…が、寂しそうだったけどな。
教えてやんないけど。
俺の返事に一つ頷くと、薬売りは腰を上げて押入れに向かった。
静かに自分の分の布団を取り出すと、の布団のすぐ傍に広げた。
それから身支度を終えて、その布団に潜り込んだ。
横になっても、の方を向いてやがる。
も、寝てる間にこんなに見られてるとは思わないだろうな。
知ったら赤面ものだな。
は免疫なさそうな上に、照れ屋だからな。
それでいて薬売りは、お構いなしだし。
何か、腹が立ってきた。
なんで、俺がこんないちゃついてる奴らを守んなきゃいけねーんだ!?
一人ならまだしも、薬売りがいるなら俺、いらねーじゃん!
つーか、帰ってくんなよ!
早く引き出しに戻せ!
皆の所に帰らせろ!
皆、こんなのよく黙って見て来たよな。
やっと順番が回ってきたって喜んだけど、これだったら当分回ってこなくていいわ。
俺は二人に背を向けると、他に気を取られないために、超厳戒態勢に入った。
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2013/9/29