幕間第六十二巻
〜気になるんです・壱〜






 さんが、俺の耳を気にしている事くらい、とうの昔に気付いている。

 俺の耳の形が他と違う事は、自分でも分かっている。
 周りから好機の目を向けられることはザラ。
 これまでに、何故こんな耳なのかと聞かれた事も何度もある。
 触られたことだって、もちろんある(特に触っていいと許可した記憶はないが)。


 けれどさんは、どうも俺の耳に触れていいものか悩んでいるらしい。


 別に俺は、触られたくないだとか、触らせるつもりがないだとか、そんな気はない。
 全く。
 気になるなら触ってもらってもいいと思っている。
 突然、何の前触れもなく触られるのはいい気はしないが、一言断りを入れてくれれば、それでいい。
 寧ろ、触れて欲しい。
 それは、俺を知ってもらうことにもなるから。


 以前、あの暑い日、唐突に触らせたことがある。
 さんは固まってしまって、俺のほうが驚いた。
 それくらい、俺の耳に触れるということは、現実離れしているらしい。


 多分、他所の耳よりは肉厚だろう。
 多分、他所の耳よりも柔らかいだろう。
 特に自慢ではないが、触り心地は悪くないと思う。



 そんな俺の耳を気にしているさんが、俺はとても気になる。



 じれったく思うことさえある。


 “触らせてください”
 そのたった一言を、さんは口に出来ないのだ。
 俺に対する遠慮なのか、自分の自信のなさなのか。
 ずっと、“大したこと”になるのを待っているのに、未だにさんの我慢は限界が見えない。
 随分な容量があるらしい。


 俺から攻めてしまった方が、さんも楽になるんじゃないか。
 触りたい、でも言えない。
 なんて悩んでいるくらいなら、そんな間も与えないように。


 もう、冬も真っ只中。


 耳の先が寒くて敵わない。


 そうやってまた、唐突に手を引いてしまえばいい。


 俺の耳を気にしているさんを気にするのは、もう終わりにしよう。
















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痺れを切らした薬売りさん…


2013/10/27