さんが、俺の耳を気にしている事くらい、とうの昔に気付いている。
俺の耳の形が他と違う事は、自分でも分かっている。
周りから好機の目を向けられることはザラ。
これまでに、何故こんな耳なのかと聞かれた事も何度もある。
触られたことだって、もちろんある(特に触っていいと許可した記憶はないが)。
けれどさんは、どうも俺の耳に触れていいものか悩んでいるらしい。
別に俺は、触られたくないだとか、触らせるつもりがないだとか、そんな気はない。
全く。
気になるなら触ってもらってもいいと思っている。
突然、何の前触れもなく触られるのはいい気はしないが、一言断りを入れてくれれば、それでいい。
寧ろ、触れて欲しい。
それは、俺を知ってもらうことにもなるから。
以前、あの暑い日、唐突に触らせたことがある。
さんは固まってしまって、俺のほうが驚いた。
それくらい、俺の耳に触れるということは、現実離れしているらしい。
多分、他所の耳よりは肉厚だろう。
多分、他所の耳よりも柔らかいだろう。
特に自慢ではないが、触り心地は悪くないと思う。
そんな俺の耳を気にしているさんが、俺はとても気になる。
じれったく思うことさえある。
“触らせてください”
そのたった一言を、さんは口に出来ないのだ。
俺に対する遠慮なのか、自分の自信のなさなのか。
ずっと、“大したこと”になるのを待っているのに、未だにさんの我慢は限界が見えない。
随分な容量があるらしい。
俺から攻めてしまった方が、さんも楽になるんじゃないか。
触りたい、でも言えない。
なんて悩んでいるくらいなら、そんな間も与えないように。
もう、冬も真っ只中。
耳の先が寒くて敵わない。
そうやってまた、唐突に手を引いてしまえばいい。
俺の耳を気にしているさんを気にするのは、もう終わりにしよう。
NEXT
痺れを切らした薬売りさん…
2013/10/27