幕間第七十三巻
〜侍と庭師・弐〜







「それ、俺だ…」






 その言葉に、脇坂だけでなく、薬売りもも目を丸くした。


「どういう事だ、お前…! お前…庭師、なのか…?」

 脇坂が弥一に詰め寄る。

「あぁ、庭師だ。確かに一度、あの屋敷の庭木の手入れをしたことはある。でも、娘さんには会ったことはねぇよ」

「では、どうしてお春殿はお前の事を…」

「さぁて、そこまでは。兎にも角にも、その庭師がアンタなら、もう、会うことは出来ませんね」

「し、しかし、もう一度会えなければ、縁談は進まぬのだろう…?」

「おい、進んでいいのかよ」

「…私はもう死んだ身。お相手が徳之進殿ならば、文句のつけようがない…潔く身を引くのが武士だ…」

「さっきまでと正反対なこと言ってんぞ、アンタ」


 いつの間にか、また二人の掛け合いに戻っている。


「納得は出来るが、やはり気持ちは伝えて逝きたいものだ…」


 真剣な顔をして、脇坂がぽつりと言った。


「だったら、こうしては、そうです」

 薬売りが言う。

「脇坂様は、気持ちを伝えると共に、弥一さんをお春様の前に、連れて行く」

 死んだことを伝えられていないのであれば、脇坂がお春の前に現れても不審がられない。
 お春は弥一に会えたことでその想いにケリをつけ、次へと踏み出せる。脇坂にも好印象を持つだろう。

「それなら、俺も助かる」

「どういう事ですか?」

 は弥一に問う。

「実を言うと、俺の心残りはあの屋敷の庭なんだ」

「庭?」

「あぁ。初めて一人で全部手入れした庭なんだ。でもただ一つ、椿の枝を切るかどうか迷った。そこに一輪花が咲けば、きっと見栄えが良くて人目も引く。でも、咲かなかったら葉だけで悪目立ちしちまう。それを確かめたいんだ…」

 薬売りは、その話を聞いて口角を上げた。



「素直に成仏してくれるってぇ言うなら、手を、貸しますよ」


















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なんか凄く短いです。
すみません…


2015/6/28